ソーニャ文庫

歪んだ愛は美しい。

会員限定特典小説

俺様陛下の不埒なお仕置き

 木漏れ日が夏のきらめきを失いつつある初秋の午後。エステルはマテウスの侍女であるカリーナに、自作のワンピースをあてがった。ワンピースの裾には、咲き乱れる小花の刺繍をしてある。
「どうですかぁ? 似合います?」
「ええ、似合っています。裾のお花の部分にもう少し色を足せば、華やかになりそうです」
「うれしいですぅ」
 カリーナは合わせたワンピースを自分の手で押さえ、その場でくるりと回る。腰に切り返しが入っているから、ワンピースは優雅に翻り、裾の花が波打った。
「可愛いですかぁ?」
 カリーナが軽く膝を曲げた淑女の礼をとった。カリーナは背が高いため、ようやく視線が合う。
「ええ、可愛い、です」
 エステルは強いて微笑みを浮かべてうなずいた。しかし、内心では、果たしてこの表現が適切なのかという疑問が湧いてくる。
 夫となるヴェルン王国の国王マテウスが信頼をおく腹心の侍女。カリーナのその姿は表向きで、余人に知られてはならない正体を思えば、可愛いという言葉はむしろ失礼ではないかと心配になった。
「はぁ……わたしはやっぱり可愛いんですねぇ。わかってましたぁ。理知的な顔立ちをしていてもあふれる愛嬌、隠しようもない気品……。どんな服を着てもごまかせない魅力にあふれていますよねぇ?」
「え、ええ、そうですね」
「うふふ。このワンピースを着て、エステルさんたちの婚礼に立ち会わせていただくのが楽しみですぅ」
 カリーナはスカートをひらひらさせながら上機嫌だ。
「誰が俺たちの婚礼に出席するだと?」
 ソファに座っているマテウスがうんざりしたように口を挟む。最近、彼はエステルとカリーナがふたりきりで会うことにいい顔をしない。
「わたしですぅ」
「おまえはやめておけ。面倒が起きたら困る」
「面倒ってなんですかぁ?」
 すっとぼけるカリーナに、マテウスは怒気を浮かべながら立ち上がった。
「正体が暴かれたら困るだろうが!」
「わたしはただの侍女ですよぉ? 誰もわたしのことなんか目に留めるはずがありません」
 ワンピースのスカートを揺らしつつ、カリーナは胸を張る。
「陛下の忠実で可愛い侍女、とみんな思っているはずですぅ」
「侍女が主の婚礼に出席できるはずがないだろう。怪しまれるに決まっている」
「気にしすぎですぅ。ぜーったい、出席したいですぅ」
「だめだ」
 マテウスが近づいてくるや、駄々っ子のようにいやいやしていたカリーナは、つと移動してエステルの背後に隠れた。
「エステルさぁん、わたしが出席するのに賛成ですよね? ね?」
 そう言われ、エステルは頭を悩ませる。
(出席してほしいけれど……)
 しかし、確かに正体がバレたら困る。カリーナは本来侍女ではないし、外を闊歩していると知られるだけでもいけないのだ。
 振り返ってから、心を鬼にして説得しようとする。
「カリーナさん、やはり陛下のおっしゃるとおり――」
「わたしを結婚式に出してはくださらないのですかぁ? あんまりですぅ」
 カリーナがワンピースを握りしめ、目をうるませる。
 その姿を眺めながら、エステルは胸を押さえた。
(何とかしてさしあげたい)
 エステルは正面に向き直り、マテウスを見上げた。
「陛下……カリーナさんの出席をお許しいただけませんか?」
 マテウスは腕を組み、忌々しげにカリーナを睨んだ。
「同情するな、エステル。嘘泣きだぞ」
「でも、わたしがカリーナさんに助けられたのは事実です。ご恩返しの意味でも、カリーナさんに出席してほしいんです」
「許可はできん」
「陛下……」
 エステルは両手を組んで、彼を見つめた。
「カリーナさんは今までも正体を暴かれたことはないと聞いております。ならば、婚礼に出席しても大丈夫ではありませんか?」
今宮殿で働いている人員は、マテウスが即位してから雇った者がほとんどで、カリーナのことは国王の忠実な侍女としてしか認識していないらしい。加えて、たまに訪れる貴族たちは、完璧に変装したカリーナの姿に欺かれているという。
「……ふむ」
 マテウスは顎にこぶしを当てて思案するような顔をした。
「陛下、お願いします」
 最後の一押しとばかりに告げたエステルに、マテウスはにやりと笑みをこぼした。
「いいだろう。だが、ひとつ条件がある」
「条件とはなんでしょう」
「カリーナが出て行ってから話そうか」
 マテウスはカリーナに向けて手を振った。
「さ、出て行け、カリーナ。俺はエステルに用がある」
「ええー! どう考えてもろくでもなさそうな感じですけれど、大丈夫ですかぁ?」
 カリーナは疑惑でいっぱいの顔をマテウスに向ける。
「これから先は、エステルと話をつける。おまえは部屋を出ろ」
「えぇ、そんなぁ。いいですけど」
 あっさりと身を翻して入り口に向かうカリーナに、エステルはあわてて手を伸ばした。
「カ、カリーナさん⁉」
「エステルさぁん、わたしのために陛下を説得してくださいねぇ?」
 カリーナは鼻歌を歌いながら部屋を出て行く。エステルは背後から肩に手を置かれ、おそるおそる振り返った。
「へ、陛下?」
「さぁ、話をしようじゃないか」
「ど、どういったお話でしょう」
 嫌な予感ばかりが募りながらたずねると、彼はエステルを引き寄せた。勢いのまま抱きしめて、耳元でささやく。
「俺を誘惑してくれたら、許可を出そう」
「誘惑?」
「俺を興奮させてくれということだ」
 下心満載の顔をするから、エステルは眉を跳ね上げた。
「そんなことはできません……!」
「できないなら、カリーナは婚礼に出席させられないな」
 彼はエステルを抱きすくめ、耳殻を舌先で舐める。肩をすくめて、刺激に耐えた。
「だめっ……」
「さぁ、どうするエステル。恩返しをしたいんじゃないのか?」
 マテウスが耳元で声を吹き込んでくる。背にぞくりと寒気に似た感覚が走った。
(誘惑だなんて……)
 そんな恥ずかしいことはしたくない。しかし、恩返しをしないわけにはいかない。
(やるのよ、エステル……!)
 内心で気合を入れた。
「承知しました。陛下を誘惑いたします!」
 エステルはそう言うと、彼から少し離れた。それからはたと動きを止める。
(誘惑って、服を脱げばいいかしら……)
 それは以前やったので、新味がないのではと不安になった。
「その……どう誘惑しましょうか」
 おずおずとたずねたエステルに、マテウスはソファに視線を向けた。
「まずはそこに座る」
「は、はい」
 ソファに座ったエステルの前に立ち、マテウスは笑顔で命じる。
「スカートを腰までたくしあげる」
「えっ」
「誘惑するんだろう?」
 確認されて、エステルは喉を鳴らす。
「はい……」
 スカートを腰までたくしあげれば、ドロワーズがはっきりと見える。マテウスはエステルの脚を軽く開かせ、ドロワーズを引き下ろした。
「あ、あのっ……」
 足から抜かれてしまえば、エステルの秘処を守るものはなくなってしまう。淡い叢で覆われた恥丘をまじまじと見下ろされて、エステルは顔を横に向けた。
「股を開いて、俺を夢中にさせるところを見せてくれ」
「そんなことは……」
 唇を噛んだ。昼間から彼の目に秘め処をさらすなんて。
「いいから早く。俺は仕事に戻らないといけないんだから」
 マテウスにせかされて、エステルは唇を噛み、股間を緩めた。
(陛下はお忙しいのだもの)
 ずっとエステルの相手をするわけにはいかない。
 股を開いて指で狭間を割り開く。下から上へ、上から下へと指を動かしているうちに、じわじわと心地よくなってくる。
「ん……んんっ……」
 指を上下に動かしているうちに、つけねの陰芽に指が届く。怯むほどに強い刺激に、エステルの指が止まった。
「そこを念入りに可愛がってくれ」
 マテウスに命じられ、エステルは肩を震わせた。
「で、でも……」
「カリーナのためだろう?」
 それを言われれば、エステルは続けるしかなくなる。埋もれていた宝石を指で探るように陰核を転がせば、恥ずかしさを押しのけて快感が芽吹いてくる。
「は……はぁっ……」
 自分の指で自分を愛撫するという背徳的な振る舞いなのに、想像以上に気持ちがいい。彼に見せつけるように股をさらに開き、悦楽にふける。
「ん……んんっ……」
「……俺も触れたくなるな」
 マテウスがエステルのすぐ前に立ち、指を蜜孔に入れてきた。入れられる瞬間は違和感があったが、慣れ親しんだように隧道を抜き差しされれば、ふたりの指が生みだす快感に全身が震えた。
「は……はぁっ……」
 エステルの指は陰芽を集中的にこすり、マテウスの指は蜜壺をかきまわす。
 互いの指がもたらす愉悦は強烈で、エステルはあっという間に極みへと押し上げられた。
「ふぁ……あああっ……!」
 背を反らして官能の極致を堪能する。力の抜けたエステルの身体を彼は引き起こすと反転させる。背後から軽く押され、ついソファの背もたれを摑んだエステルの腰に彼の腕が回る。尻を彼に突きだす格好にされて、エステルはあわてた。
「だ、だめっ……」
 ベッドでもない場所で、しかも尻を彼に向けるという淫らな姿勢をとらされて、あわてふためく。
しかし、マテウスの腕は強くて振りほどけない。彼は脚衣を緩め、猛りきった男根をあらわにすると、無造作に挿入してきた。
「はぁっ……ああっ……」
 衝撃に目を見張る。だが、マテウスがぬちゅぐちゅと音を立てて抜き差しをしてくると、エステルの肉体はたちまち陥落した。蜜洞は甘く痺れ、彼の律動がもたらす心地のよさに心までも揺さぶられる。
「はっ……はあっ……ああん……」
 エステルの喘ぎに煽られたのか、マテウスの抽挿は激しくなる。硬度を増した陰茎が恥丘の裏や最奥を突いてくるから、エステルの声は甘く濡れた。
「ふ……ふぁあっ……ああっ……気持ちいいっ……」
 つい漏れた本音に彼がささやく。
「俺もいいぞ……おまえの中がよすぎて、イキそうだ」
 ずぷずぷと音を鳴らされ、エステルはうなずいた。
「わ、わたしも……」
 ふたりで快楽を堪能する状況に、エステルは息を喘がせた。
(……これで……よかったの……かしら……)
 カリーナが婚礼に出席することとこの場で性交していることが結びつけられるのはおかしい気がするが、もはやエステルの頭は官能の波に洗われて白くなるばかりである。
「エステル。今度から、カリーナに味方したら、このお仕置きが待っているからな」
「そんな……ああっ……」
 勝手な言い分を聞かされているのに、肉体は愉悦にひたってしまう。エステルは喉を反らした。
(ひどい方だわ……)
 心の中で恨み言をつぶやいても、絶え間なく快感に襲われては口にも出せない。
 エステルは不埒なお仕置きを悦んで受け入れたのだった。        
 
(了)

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