ソーニャ文庫

歪んだ愛は美しい。

会員限定特典小説

ダミアンとスティーヴの帰還戦略

 ダミアンはしょんぼりしていた。
 理由はニシキヘビのスティーヴに他ならない。アデルによってアリング伯爵邸からバークワース公爵邸に連れて来られてからというもの、ダミアンはずっとスティーヴとペアにさせられている。それが普通だといわんばかりに、ダミアンのハウスとスティーヴのハウスは隣どうしに置かれているのだ。ハウスまでもがペアだなんて、到底納得いくものではない。ダミアンのペアは大蛇などではなく、かわいいラーラだというのに。
 せめてスティーヴとの距離をとろうと、ふたつのハウスの隙間を鼻で押して大きく開けた。こうしてダミアンは、ひとまとめはいやだというアピールを周囲にかかさない。しかし、そのつど公爵家のいまいましい召し使いがめざとく見つけ、角度を正してぴたりとくっつけるのだった。それがここ数日繰り返されているが、ダミアンは今日も負けじと鼻でぐいっと隙間を開けた。
 ハウスだけではなかった。スティーヴ自体にも大いに問題がある。夜、眠っていると、スティーヴはたびたび音を立てずにダミアンのハウスに侵入してきて、いつのまにかこちらにぴたりと寄り添い、となりでとぐろを巻いている。「グルルルルル」と威嚇しても効果がない。こちらをばかにしたように、くわーっと口を開け、ふてぶてしく舌をちろちろ出すだけだ。
 おまけに、スティーヴは四六時中ダミアンの行動ににらみをきかせてつきまとう。我が物顔でダミアンににょろりと這い上がり、身体に巻きつき、背中を占拠する。どうやらスティーヴはダミアンを移動手段として捉えているふしがあり、それがダミアンは気に入らない。
 もともとダミアンは闘犬と猟犬が掛け合わされて生まれた誇り高い雑種だ。筋骨隆々の黒光りする勇猛な姿もあいまって、アリング伯爵邸では畏怖の念を抱かれていたものだった。そんな孤高ともいえる彼は、自分の頭は認めた者にしか触れさせない。しかしながら、あろうことかスティーヴは、ことあるごとに頭に顔をのせてくる。吠えても効果はみられず、ずっと重みは続いたままだ。身勝手でいやなやつだとダミアンは思う。
 不満が募れば、思い描くのは、黒髪でぱっちりとした紫色のおめめがかわいいラーラのことだ。早く頭を撫でられたい。
 子犬のころからずっとラーラといっしょだったのだ。彼女を思うと、知らず口から「クゥゥゥウン」と声がこぼれ出る。遠吠えすれば、すかさずいまいましい公爵家の嫡男ローレンスに「こらダミアン、真夜中にうるさいぞ!」と怒られるし、頻繁に公爵邸を訪ねてくるいまいましいヘンリーには、「しっ、しっ、猛獣め、あっちへ行け!」と言われる。そしてダミアンは強く願うのだ。このろくでなしどもの傍ではなく、ラーラのもとに行きたいと。
 何がきっかけでこのような事態に陥ったのだろうと彼は振り返る。
 もともとダミアンは、ラーラだけのペットだったのに、いつしかアデルが飼い主顔で命令してくるようになっていた。やがて、はっと思い至る。──干し肉だ。アデルがこしらえる魅惑の干し肉に抗えないのだ、どうしても。
 その魅惑の干し肉の味を思い出せば、アデルにもとてつもなく会いたくなってくる。なにせ、ローレンスが用意する干し肉はアデルのものとは全然ちがう。ダミアンは、名門貴族アリング伯爵家で子犬の頃から育っているため、なかなか舌が肥えているから、味にはうるさいほうなのだ。
 すっくとその場に立ったダミアンは、うろうろと部屋じゅうを歩き回りつつ思案する。
 このまま待っていても埒があかない。ラーラにも魅惑の干し肉にもいつ会えるかわからないのだ。それならば……。
 ダミアンの首輪を飾るアメシストのブローチが、光を反射してきらめいた。
 ダミアンは、アデルとラーラのいるメイシー伯爵邸に向かおうと思った。


 いざ向かうことに決めても問題は山積みだった。ダミアンは、ローレンスがいないと外に出してもらえない。外に出してもらえたとしても、しっかりと閉じられた公爵家の錬鉄の門が行く手を遮っている。
 前脚を前に投げ出してべたりとじゅうたんに這いつくばっていると、にょろりとスティーヴが背中に這い上がってくる。ダミアンは、すごく気になるものの、おとなしく乗られたままになっていた。スティーヴは、ヘビなだけにヘビのようにしつこくて、威嚇や抵抗はするだけ体力の無駄なのである。油断を誘い、隙をつくしかない。
 ちょうど鋭い音が聞こえて、ダミアンはぴくりと耳を動かした。玄関の分厚い扉につくノッカーを鳴らす音だ。この鳴らし方はヘンリーだと思った。
「ワン!」
 立ち上がったダミアンは、タッタッタッと駆け出した。ヘンリーは、何を考えているのかわからないローレンスに比べ、単純だから扱いやすい。隙をつくなど簡単だ。ヘンリーの馬車といっしょに門から出てしまえば、あとはこっちのものである。
 玄関ホールを目指していると声が聞こえてきて、ダミアンは柱の陰から様子を窺った。黒い毛並みの彼は、隠れるのが得意だった。
「ローレンスはいるだろう?」
 今日もヘンリーはぴしりとした流行りの装いで、必要以上に洒落ている。あれを見ていると乱したくなってしまうが、ダミアンはぐっとこらえることにした。
「はい、ご案内いたします」
「いや、いい。勝手に行くさ」
 家令の申し出を断ったヘンリーは、迷うことなく階段に向かう。ダミアンもそろりそろりと後に続くが、ヘンリーは気づいていないようだった。
 沈黙が続く中、ダミアンの上のスティーヴが「シャ──」とかすかに奇音を立てていた。
 やがてヘンリーが足を止めた先にあったのは、ローレンスの部屋だった。
 入室するやいなや、ぱたんと扉が閉められて、ダミアンは、その扉の前におすわりをして、つんと耳をそばだてた。
「おいローレンス、僕に伝書鳩を飛ばすとはどういうわけだ? 『話がある』だなんて気になるじゃないか。気になりすぎて急いで馬を走らせたぞ」
「聞いてくれ、ヘンリー。昨夜遅くにようやく船が到着し、ツノガエルが届いたんだ……」
「ああ、スティーヴが丸呑みにしたクリストファーの代わりだったな。よかったじゃないか。だが、それがどうした。はっきり言って、僕には関係ないことだ。あまり巻きこむなよ?」
「想定外のことが起きたんだ。私はツノガエルを三匹注文したが、それは長い船旅でカエルが弱って死ぬのを見越した予備のためだった。ところが、こうして全員健在で……妙にぴんぴんしている。どうしたらいい? ツノガエルはアデルの一匹しか必要ない。それが、三匹だ。残りの二匹はどうすればいい? これを見てくれ」
「うわっ、布をめくるなよ! ……は、なんだこいつら、いくらなんでも大きすぎるだろう! おぞましい!」
「そうだ、大きい。こいつら、全員6インチ(15センチ)もあるんだ」
 ローレンスの言葉の途中で、ダミアンはぶるりと身を震わせた。スティーヴを身体から振るい落とそうとした行動だったが、がんばっても効果はなく、ダミアンはしゅんとした。スティーヴはさして動じることなく、依然としてぎっちりと締めつけすぎず、ゆるめすぎずのいい塩梅で、ダミアンに巻きついたままだ。
 そのあいだも会話は続けられている。
「……なあ、残りの処理だが、あのスティーヴはこのでかいカエルを食ったんだろう?」
「ああ、ひとたまりもなく丸呑みだった。ちなみにスティーヴが食べたクリストファーも、こいつらと同じサイズだ」
「だったら簡単だ。二匹を同じように食べさせてしまえよ。一瞬でかたがつくぜ」
「そんな、残酷な!」
 ローレンスの叫びにダミアンはぴくりと反応して立ち上がる。そして、扉の前でうろうろと歩きはじめた。
「だったらローレンス、お前が飼えよ」
「いやだ! 気味が悪い! 私はカエルが大きらいなんだぞ!」
「知るかよ。それともアデルに託すか、だな。道はふたつにひとつだ」
「待てよヘンリー、どう言って託せばいいんだ!? 忘れるなよ、クリストファーの事件は内緒が前提だ。それが、同じツノガエルがあと二匹もいるなど不審だろう? どう考えてもおかしいじゃないか」
「仕方がないな、この優秀な僕がうまい説得の方法を考えてやろう。とりあえずそのおぞましい生き物をすべてアデルに届けようぜ。ラーラの様子もさすがに気になるからな。もうかれこれ二週間もあの屋敷に閉じこめられたままだ」
 ふたりの足音が聞こえて、ダミアンは扉の前から離れた。
 蝶番の音とともに扉が開き、ローレンスとヘンリーが出てきたが、彼らは扉の陰でおすわりをするダミアンに気づくことなく歩いていく。そのさまをダミアンは目で追った。
「アデルも二週間、ここには来ていないぞ。館に入ったきり外出していないらしい」
「本当か? あのくそガキども、セックス三昧とはとんでもなく不埒なやつらだ! 召し使いはいるんだろう? 食事はどうしているんだ」
「召し使いはいるにはいるが、すぐに人払いされるらしい。あとはお察しというわけだ」
「聞いていられない、破廉恥だ!」
 ヘンリーが片手で両目をぴしりと覆うなか、ダミアンは、こっそり彼らを追いかけた。

      ×  ×  ×



「ラーラ、好き。……大好きだよ」

「ん。……アデル、わたしも」

 アデルは暇さえあればラーラの傍に寄り添って、そしてひとつになっている。いまは刺繍にとりかかろうとするラーラを押し倒して彼女と深く繋がっていた。その少し前も、彼女と行為に耽っていたけれど、いくら抱いても飽きることはなく、離れたそばからまた欲しくなる。

 ラーラは、最初こそ『お屋敷に帰らなければいけないわ』と困惑していたけれど、いまは言わなくなっていた。それはアデルが彼女の父親アリング伯爵から届いた手紙を見せたからだ。内容は、結婚を認めること、ラーラをよろしく頼むといったものであり、そこにはラーラ宛てにもメッセージがあって、『きみの夫、アデルは立派な人物だ。まだ私の娘でいてほしいが、彼に任せれば大丈夫だと判断した。よく従い、いい子にしているんだよ』と書かれていた。それが効果てきめんだった。

 アデルはアリング伯爵の前で猫をかぶり続けていたため、彼の息子のヘンリーよりも信用されている。おまけにラーラは、ヘンリーにはやや反抗的だが、両親の言いつけはきっちり守ろうとする女の子だ。以降、彼女はこのメイシー伯爵邸を自分の居場所としてくれるようになった。

 まさに、アデルにとって理想の世界のはじまりだった。

『ねえラーラ、僕はメイシー伯爵だから跡継ぎが必要なんだ。まずは君に子どもを産んでほしいと思っているんだけれど、いいかな?』

 告げれば、ラーラは素直にこくんとうなずいた。

『跡継ぎが必要なのはわかっているわ。わたしは妻なのですもの。で、何をすればいいの?』

『簡単だよ、ずっと僕と愛し合えばいいだけ。そのために一か月、まるまる休暇をとったんだ。さっそくしようか。いっしょに気持ちよくなろう』

『またするの?』

『一日中するよ。そのうち赤ちゃんを授かるから』

 ぽっとりんごのように赤くなったラーラは、『でも……一日中ははしたないわ』とつぶやいた。

『はしたなくないよ。必要で大切なこと。ね、ラーラ、愛してる』

 それからというもの、ラーラは少しずつ行為に慣れて、いまでは突然アデルがはじめても快く受け入れるようになっていた。しかし、今日はなぜか刺繍に執着しているようだ。

 長椅子の上でラーラを組み敷くアデルがキスに夢中になっていると、唇が離れたとたん吐息交じりに彼女が言った。

「アデル、待って。先に刺繍を終わらせるわ……。ビリーを抜いてほしいの」

「そんなの、あとでいいよ。僕に集中して?」

「だめよ……。だって、アデルのハンカチすべてに刺繍をしたいのだもの」

「え、僕のハンカチすべて……?」

「そうよ」

 まいったなとアデルは思う。彼は、ハンカチは刺繍のないシンプルなものが好きなのだ。しかしラーラはハンカチのど真ん中にごってりと刺繍を盛ってしまうため、少々──否、かなり使い勝手が悪くなる。そしてその出来栄えは、ラーラを好きな気持ちや愛する想いを足しても補整されることはなく、あまりうまくは見えない。

 以前、ヘンリーが紳士クラブで、『最悪だ! 間違えてラーラが刺繍したハンカチを持ってきてしまった……これじゃあ恥ずかしくて出せない』と片手で両目を覆っていたが、思わずうなずいてしまえるような有り様だった。

「ち、ちょっと待って。ラーラ、全部はいいから。大変でしょう? 無理に刺繍をしなくていい。その気持ちだけでじゅうぶん僕はうれしいよ」

「だめよ。たしかに刺繍はすごく大変だけれど……でもね、アデルを思うとしたくなるの」

「……え?」

 意味がわからずアデルが首を傾げれば、ラーラははにかみながら、「あのね」とアデルの首に手を回し、ちゅ、と唇を重ねてきた。

「わたし、アデルを愛しているから刺繍をしたくなるの。それにね、旦那さまのハンカチに刺繍するのが夢だったの。だからアデルのハンカチに刺繍をするのよ。一針一針想いをこめるわ」

 感極まったアデルは、身を打ち振るわせた。そして、ひしとラーラを抱きしめる。

「ラーラ! 僕のハンカチすべてに刺繍して!」

「ん……がんばって全部にするわ」

「ああ、好きだ。ラーラ、君を愛してる。愛の上にもっと愛を伝える言葉が必要なくらい、それほど愛してる。何度言っても言い足りない。本当に、おれ、愛しているから」

 ラーラがかわいくてかわいくて仕方がないアデルが、彼女に大いなる愛を刻みこもうとしたときだ。愛の巣であるメイシー伯爵邸に、無情なノッカーの音が何度も響いた。





 いくら無視を決めこんでも鳴り止まぬノッカーの音に、アデルは不機嫌に金色の髪をかきあげた。しかもふざけたことに、現在、その音は国歌のリズムに合わせて、スタッカートで打ち鳴らされている。

 執事や召し使いたちに暇を与えたのは失敗だった。なぜなら音を止めるにはアデル自ら玄関に行かねばならない。伯爵が来客応対するなど、身分にそぐわぬ行動だ。

 ──くそ!

 と、いってもアデルは誰が来たのかを把握している。門番に通す許可を出している相手はバークワース公爵家かアリング伯爵家の者のみだからだ。

「どうしよう、お客さまだわ」

 顔を火照らせ、戸惑うラーラに、アデルはじっくりくちづける。

「ん……」

「客じゃないさ、このひどいいやがらせ……ただのじゃま者だ。追い払ってくる」

 アデルは服を整えながら、また彼女に短くキスをして、「待っていて」とささやいた。

 ラーラのもとを離れたアデルは、すさまじく気が立っていた。

 玄関ホールにたどり着いた彼は、大きな花瓶に目をやった。八つ当たりに割ってしまいたくなるが、ぐっとこぶしを握って耐え抜く。

 玄関の扉を開けるなり、目に飛びこんできたのは、にこにこ顔の兄ローレンスとヘンリーだ。アデルは声をかけることなく、そのまま静かに扉を閉めた。

「おい、アデル! なぜ閉めるんだ!」

 ヘンリーの叫び声にアデルはすげなく言った。

「だまれ。いま忙しい。帰れ」

「はあ? 待てよ、それが義兄に対する態度か!」

「ヘンリー、僕らのじゃまをするな。またノッカーを打ち鳴らしてみろ。ブールジーヌ家に次女がいることを忘れるな。お前に娶らせるぞ」

「はあ!? ふ、ふざけるな! せっかくお前に朗報を持ってきてやったというのに」

 その言葉にアデルは少し興味を覚えた。また扉をわずかに開いて片目だけ出す。

「その朗報とやらを言え」

 得意顔のヘンリーが言うにはこうだった。アデルのペットのツノガエル、クリストファーに友だちが新たに二匹出来たらしい。だから三匹トリオでまとめてかわいがれとのことだった。ヘンリーのとなりでは、大きな箱を持つローレンスがどこか心配そうにそわそわしている。

「なあアデル、名前はどうする? クリストファーだから……そうだな、ジャッキーとチャールズってのはどうだ? ああ、その前に仲間とご対面といこうか。ほら、ローレンス、布をめくれよ」

「だまれ。対面するつもりはない」

 兄たちふたりは「え……?」と固まった。 

「何が朗報だ。僕は多頭飼いはしない主義だ。つまり一種類につき一匹のみ。三匹トリオや友だちなどとふざけたことをぬかしていないで早く帰れ!」

「はあ? 待てアデル、お前の好きなカエルだぞ!?」

 その声を無視して、アデルはぴしゃりと扉を閉めた。

「おい、アデル! 僕たちの話をきけよ!」





 じゃま者を追い払ったアデルは、一路ラーラの待つ部屋へと向かった。その道すがら、とある音を耳にして足を止めた。それは「グルルルル」といったうなり声だ。

 アデルは窓を開け、口の端を持ち上げる。

「ようやく来たか」

 つぶやきながら、窓枠を跨いで外へ飛び出した。

 さく、さく、と土を踏みしめる。

 ゆったりと歩んでそれに近づけば、アデルの存在に気づいたのだろう、声は「グルルル」と威嚇するものから「クゥゥゥウン」と甘えるものへと変化した。

 アデルはそれを覗きこむ。以前こしらえた落とし穴だ。

 穴の中では、大きな身体のダミアンが、こちらをせつなげに見上げている。その身体にはスティーヴが巻きついていたが、スティーヴはアデルを認めるやいなやダミアンから離れて、しゅるしゅるとアデルのもとに這ってきた。心なしかうれしそうだ。

 しかし、アデルはスティーヴをすげなく睨みつける。

「お前はダミアンとペアだ。戻れ」

 アデルが咎めれば、どこかしょんぼりしたスティーヴは、またにょろにょろとダミアンのもとへと戻っていく。そして筋骨隆々の黒い身体に巻きつくと、二匹はつぶらな瞳でじっとアデルを見つめた。

「ダミアン、お前はまだまだだ。干し肉の魅力に抗えず、穴に落ちるなど愚かの極み。それでラーラの番犬が務まると思っているのか。危機管理がなっていない。まるでだめだ。いいか、この屋敷には数々の罠がある。干し肉にまどわされず、見事くぐり抜け、僕のもとにたどり着ければお前を認めてやる。今日のところはローレンスのもとに帰れ。はじめからやりなおしだ。わかったな?」

 ダミアンは、アデルの言葉がわかったかのように、「ワン!」と大きく鳴いた。

 それはラーラにも軽々届くほどの鳴き声だったが、残念ながらラーラは行為に疲れて眠っており、愛犬ダミアンに気づくことはなかったのだった。

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