ソーニャ文庫

歪んだ愛は美しい。

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真夏の夜の思い出

 雲ひとつない新月の夜。寝支度をしていたシャーリーにジークヴァルトが唐突に「出かけるぞ」と声をかけた。
「……え、今から? もう寝る時間よ?」
「ああ、今からだ」
「また深夜のお茶会? それなら外のテラスか中庭?」
「違う、行くのは湖だ」
 深夜に湖に行く理由が思いつかない。ジークヴァルトの突拍子のない発言には慣れているが、行き先はシャーリーの予想を超えていた。
 就寝前のナイトドレス姿のまま、靴を履き替えるように命じられる。なにをしに行くのだろう? と疑問を抱きつつ、シャーリーは手早く身なりを整えた。
「湖になにかあるの?」
 シャーリーを抱き上げたままジークヴァルトは森の奥へ入っていく。到着した先は、妖精の世界に来て早々に連れていかれたところとはまた別の湖だった。
「これから流星群が流れる。夏の流星群を見るのははじめてだろう?」
「流星群? 見たいわ!」
 ジークヴァルトが洞窟の奥で見せてくれた流星群も美しかったが、あれとはまた違う光景なのだろうか。
 シャーリーはわくわくした気持ちで空を見上げる。今宵は月が見えない。暗闇には星々がキラキラと輝いていた。
「今夜は月がないから星がより綺麗に見えるわね。輝きが美しいわ」
 ちかちかと瞬く星空を地面に寝そべって見上げたい。
 ジークヴァルトの腕を軽く叩き、地面に下ろしてもらう。敷物を持ってくればよかった。
 ──でも、流星群を見るなら城からだって見られるのでは?
 わざわざ湖にまでやってきた理由はなんだろう。
 ふと、視界の端に淡い光が映った。ふわふわと動く光を凝視する。
「あれは妖精?」
「違う、蛍だ。毎年夏になると見られる光景だな。ここは蛍が生息できる条件がそろっているのだろう」
「はじめて見たわ。優しい光ね」
 風のない穏やかな夜。湖には星空が映り、蛍まで飛んでいる。これで流星群が眺められたらどれだけ幻想的で美しいだろう。
 シャーリーの眠気はとっくに消えていた。期待と高揚感が胸の奥に広がっていく。
「湖の上で眺められたらきっと綺麗よね。ボートがあればよかったわ」
「ボートは今度用意しておくか。湖の上で見たいなら、抱き上げていくぞ。ああ、だがロッティももしかしたら水面の上を歩けるかもしれないな」
「私も? それって妖精に近づいたから?」
 身体はもうすっかり妖精の世界に馴染んでいる。自分ではよくわからないが。
「試してみたらどうだ?」
「遠慮しておくわ」
 ジークヴァルトの声は楽しそうに響いた。からかいが混じっているように感じられるし、真に受けて溺れるのは嫌だ。
 ──でも、足くらい水につけてみるのはいいかもしれないわ。
 真夏の夜は昼間より気温が下がっているとはいえまだ暑い。少しくらい水浴びをしてもいいかもしれない。
 流星群が見られるまでもう少し時間がかかりそうだという。きっとジークヴァルトはいつ流れるのかもわかるのだろう。シャーリーは履いていた靴を脱ぎ、裸足になった。
「気持ちいいわ……ちょうどいい冷たさね」
 足首が隠れるぐらいまで水につけて、パシャンッと蹴りあげる。昼間温められた水は身体の芯まで凍えるような冷たさは感じず、気持ちのいい温度だ。
「ジークは水浴びしないの?」
「そうだな……」
 ジークヴァルトはじっとシャーリーを見つめていたが、やがて水面の上を歩いて近づいてきた。
「水浴びするなら服は邪魔じゃないか?」
 ナイトドレスの裾を膝まで持ち上げているシャーリーに問いかける。
 水浴びといっても足だけで十分なのだが、彼の表情には悪戯めいた色が滲んでいる。
「いえ、大丈夫よ。足だけで……」
「せっかくここまで来たんだ。忘れられない夜にしたいだろう?」
 ジークヴァルトの声に甘さが混ざる。シャーリーは思わず彼から距離を取ろうと後退るが、慣れない水の中では素早く動くこともできず、あっという間に水面を歩くジークヴァルトに間合いを詰められてしまった。
「ジーク、なにを……ひゃあ!」
「ここには誰もいない。妖精王と花嫁の逢瀬を邪魔する妖精も入って来られない。他の目を気にせず、淫らに乱れられる。そう思うだろう?」
「お、思わない……って、ああ、ダメよっ」
 ナイトドレスが脱がされて、下着姿にさせられてしまった。ジークヴァルトの不埒な手は、さらに僅かな布地をはぎ取り、シャーリーの裸体を晒してしまう。
 いくら深夜とはいえ、夜目が利く彼ならはっきりとシャーリーの姿が見えるだろう。
「も、もう……! なんで裸に……」
 羞恥心が襲い掛かる。シャーリーは顔を真っ赤にさせて、両腕で胸を隠した。
「何故隠す。全部見せろ」
「そんなことをするためにここに来たんじゃ……」
「ロッティが可愛すぎるから仕方ない。流星群の夜に蛍が飛ぶ湖の上で睦み合うのも真夏の夜の思い出になるだろう?」
「んんー!」
 上を向かされ、シャーリーの抗議はジークヴァルトの口に呑み込まれる。
 腰に回った腕がシャーリーの身体を引き上げて、湖面に立たせた。足の裏に水の反発を感じるのが不思議だ。
 ──私だけ脱ぐなんて、ずるい……!
 ジークヴァルトの衣服は乱れていない。自分だけが外で裸にされていることがとてつもなく恥ずかしい。
 彼は恥ずかしがるシャーリーの羞恥心をさらに高めようとする。丸い臀部を揉まれ、秘められた場所に指が入り込んだ。口づけをされたまま、シャーリーの背筋がビクンと反応する。
「幻想的な夜に淫らな行為をするのは恥ずかしいと言いたげだな」
「あ……っ、わかっているなら指、ダメ……ン」
「俺はもっと恥ずかしがればいいと思っている。ほら、ロッティの身体も俺を待ちわびているようだぞ」
 すっかりキスをされるだけで身体が反応するようになってしまった。ジークヴァルトの指がシャーリーの膣に埋められていく。
 淫靡な水音が耳に届いた。彼の指をさらに奥へ招いてしまう。
「あぁ……っ」
「蕩けているな。ほら、ロッティ。目を閉じていたらダメだろう。そろそろ星が落ちてくる」
 ジークヴァルトの肩に縋りつきながら目を開ける。するとシャーリーの視界に流れ星が映った。
「あ……流れ星……!」
 ひとつ、ふたつと流れた後、次々と無数の星が降ってくる。幻想的な光景に目を奪われ、感嘆とした吐息を漏らした。
「すごい……綺麗……」
「そうだな、美しい光景だ。だが、俺は快楽に溺れる花嫁のほうが美しいと思うが」
「ちょ、なに言って……あ、待って、そんな……アアァン……ッ!」
 湖面の上で立ったまま片脚を持ち上げられて、中心部にジークヴァルトの雄があてられた。彼はいつの間に下穿きを緩めていたのだろう。制止の声も届かず、すぐに奥まで満たされてしまう。
「はぁ、ン……ッ」
「星に集中するのもいいが、俺のことを忘れてもらっては困る」
 ジークヴァルトはシャーリーの身体を繋げたまま持ち上げた。そのまま湖の中央まで歩きだす。
 歩くたびに起こる振動と、落ちたら溺れてしまうという恐怖心に煽られて、シャーリーはギュッとジークヴァルトに抱き着いた。
「アァ……ふかいの……」
「深く呑み込めてえらいぞ。気持ちいいだろう、ロッティ。星も蛍も、淫らな花嫁を見ているぞ」
「ヤァ……いじわる……っ」
 ──せっかくの流星群なのに堪能するどころではないわ!
 静かな湖にはシャーリーの甘い声が響き渡る。
 彼が言った通り、この真夏の夜は忘れられない思い出となった。

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