ソーニャ文庫

歪んだ愛は美しい。

王太子は聖女に狂う

王太子は聖女に狂う

著者:
月城うさぎ
イラスト:
緒花
発売日:
2017年04月05日
定価:
704円(10%税込)
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あなたも早く私に狂って。

次代の聖女に選ばれたエジェリーは、王太子シリウスの姿を見た途端、前世の記憶が蘇る。前世の彼はエジェリーの夫で、彼女は彼に殺された。その残酷さに恐怖を覚え、彼を避けるエジェリー。しかしシリウスは、前世など知らない様子でエジェリーを気遣い、優しく話しかけてくる。警戒しつつも彼を受け入れつつあった彼女だが――それは彼の罠だった!? 狂気と欲望を露にしたシリウスに無垢な身体を拓かれたエジェリーは、彼と婚約することになり……。
清廉潔白な王太子×前世で彼に殺された令嬢、逃れられない執着愛!

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登場人物紹介

エジェリー

エジェリー

本好きの貴族令嬢。前世のシリウスに殺された記憶が蘇り、彼を避けるが……。

シリウス

シリウス

非の打ちどころのない王太子。エジェリーに避けられていることを知りながら、何度も彼女に話かける。

お試し読み

「ッ! ──や、嫌……っ」
「動かないで、エジェリー。あなたの肌を傷つけてしまう」
 刃物で衣服を切られる恐怖に、エジェリーの血の気が一瞬で引いていく。
 ぱさりと切り裂かれた布の塊が、床に落とされた。外気に触れた肌からさらにエジェリーの体温が奪われる。
 人形のようにただ呆然として見上げるエジェリーを、シリウスはうっとりと見つめた。聖女のドレスの下から露になった彼女の肌は、白く美しい。同じ純白のシュミーズの肩紐を、シリウスは躊躇なく掌でずらしていく。
 カタカタと、エジェリーの身体が小刻みに震えた。尋常ではないシリウスの雰囲気を肌で感じ取る。もはや言葉では説得できそうになかった。
 恋に憧れはあっても消極的で、慎ましやかな生活を送っていたエジェリーは、男女のことについてさほど知識はない。
 だがそんな彼女でも王族へ嫁ぐ娘は生娘が条件で、王族によって純潔を散らされた少女はその男の花嫁にされることは知っていた。
 王家の子種を宿している可能性のある身体は、もはや少女一人のものではないのだから。
(……このままだと、無理やり殿下の花嫁にされてしまう)
 恐怖で声が出せない。
 愛を囁くでもなく、こんな試される形で純潔を奪うなど、許されるはずがない。
 エジェリーへの執着が、過去の彼の感情か今のシリウスのものなのか。心の在処を見定めるために、身体を繋げてしまえばいいなど、冗談ではない。エジェリーは、彼へのささやかな好意が、もろく崩れ去っていくのを感じた。
 逃げなくては──。必死にそう思うのに、身体が先ほどの恐怖を覚えていて動けずにいる。服を切り裂いたナイフは床に落とされた。彼の手が届く範囲にはないのに、なにをされるかわからなくて、己の胸を両腕で抱き締める。
「エジェリー、私はあなたを傷つけたいわけではありません。……まあ、結果的にはあなたを傷つける行為をすることになりますが。大事にしたいのに、そう思うたびに、あなたがレオンに向けた笑顔が浮かぶのです。私には見せてくれなかったあの表情。もはやこうなってしまえば、あの笑顔を私に向けられる日は来ないのでしょうけれど」
 悲しそうに眉尻を下げるシリウスは、震えるエジェリーに手を伸ばす。
「あなたの唇は柔らかそうですね。零れる吐息をすべて喰らってしまいたくなる」
「や、やめて……」
「どんなに優しくしても、あなたが私を好きになる日が来ないのなら、憎まれて嫌われることを選びます。私はもう、理性ではこの飢餓感を抑えられないのですから」
 シリウスの目は本気だった。エジェリーを見つめてくる眼差しには、静かな熱が込められている。本能がむき出しになった彼の強い感情を向けられて、エジェリーは小さく息を呑んだ。堪えきれない怯えを見せると、シリウスがうっそりと嗤う。
「ああ、いけませんよ。そんなに怯えられたら、もっとひどいことをしたくなってしまう。私に向けるあなたの感情のすべてが、心の奥を疼かせるのですから」
「なにを言って……」
「きっとあなたにはわからないでしょうね。私がどれだけあなたを欲しているか。激しい嫉妬も独占欲も……。なにより私自身が、この気持ちがどこから生まれるのかわからない」
 苦悩の滲む独白は紛れもない彼の本音なのだろう。
 エジェリーは自分の制御がきかないほどなにかを強く欲しいと思ったことがない。そして誰かに激しく求められたことも初めてで、カタカタと身体が震えてしまう。
 そんなエジェリーの様子に気づきつつ、一度寝台を下りたシリウスは、用意していた小瓶を持って戻って来た。橙色の光に照らされた小瓶は、色の判別が難しい。
 エジェリーは恐怖の眼差しをシリウスに向けた。
「こうすればわかりやすいでしょうか」
 彼は、ランプを消して、バルコニーに通じるカーテンを開いた。満月の青白い明かりが室内を照らす。目が柔らかな光に慣れると、彼が持つ小瓶の中身が綺麗な菫色であることがわかった。
「なに……」
 不穏な気配を感じ取ったエジェリーは、シーツの上で後ずさる。しかし強張った身体はなかなか言うことをきいてくれない。四つん這いになり、寝台から下りようとするエジェリーを、シリウスがそのままうつ伏せに寝かせた。
「これも邪魔ですね」
 するりと肩の紐が落とされて、膝上まであったシュミーズが頭から抜かれる。背中にあるビスチェ型の胸当ての紐も解かれ、素肌が暴かれていく。そっと背中に指を這わされると、背がびくりと反応した。
「ッ……!」
 枕に顔を押し付けてエジェリーは小さな悲鳴を上げた。
 けれどシリウスはそれに構うことなく寝台の上の小瓶を手に取り、少量を掌に垂らす。
 少し己の体温で温めた液体を、エジェリーの背中に塗りつけた。
「きゃあ……」
「先ほどの小瓶の中身です。口に含んでも人体に影響はありません。媚薬としての効果は保証できますよ」
「び、やく……?」
 言葉の意味が脳に届く。ぶわり、と感情が高まった。
 聖女の証である純白の衣装を無残に切り裂かれ、媚薬だという液体は思い入れのある菫色だ。それはエジェリーの矜持を傷つけるに十分だった。
「初めての痛みを和らげるための媚薬です。違法なものではありません。王家に伝わるものですから、ご安心を」
「い、嫌……」
 口ではそう言うものの、男の身体に押さえつけられては抵抗ができない。そのうちに丹念に塗り込まれていく。背中の皮膚が徐々に熱くなる。
「背中よりも粘膜に直接擦りこんだ方が効果的なんですが」
 背骨、肩甲骨、腰の窪みから、シリウスの手の感触がまざまざと伝わってくる。
 外見は中性的であるのに、剣を扱う彼の手の感触は武人のものだ。
「エジェリー」
 柔らかなテノールがエジェリーの鼓膜を震わせる。その声が夢の中で聞く人物と重なって、両耳を塞ぎたくなった。
「ん、ぅッ……! んん」
 しかし強引に横を向かされ、覆い被さってきたシリウスに呼吸を奪われる。ゆっくりと丹念に、美貌の男がエジェリーの唇に食らいついた。エジェリーは目を見開き、悲鳴を堪える。
 無理な体勢に苦しさから眉をひそめると、唇が合わさったまま仰向けにされる。僅かな息継ぎの間に酸素を吸い込もうとするが、次の瞬間にはすぐにそれすら奪われている。
 心の中で苦しみと拒絶の声を上げるが、口腔に侵入してきた彼の舌先に粘膜をこすられると、意識がそちらに向いてしまう。逃げれば執拗に追ってくる。上顎も下顎もざらりと舐められ、捕食されている感触に全身の毛穴が開いた。
 抵抗しなくてはと頭では思うのに、身体が命令を聞き入れてくれない。先ほどシリウスが破いた絹の音が、残響のように耳にこびりついている。
 服を切り裂かれた恐怖、襲われている現状、そしてシリウスの独白。
 一度にどっと衝撃が押し寄せたために、情報がうまく処理できない。思考も身体も動かせない。いっそのこと、これが悪い夢だったらいいのにと願ってしまう。
 ぴちゃぴちゃと淫靡な水音が響く。初めてのキスの味も感触も、困惑と嫌悪しかない。
 酸素が不足して、頭がうまく回らない。口の端から唾液が零れ、顎にまで伝い落ちた。シリウスの唾液も意図的に流し込まれ、飲み込まされる。
 こくりと喉が上下したのを確認し、彼は笑みを深めた。理解不能な思考と行動に、じわりとエジェリーの視界が潤んできた。
 眦から雫が頬に伝う。唇を離したシリウスは、その水滴をそっと指先で拭った。
「初々しい私の乙女」

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