ソーニャ文庫

歪んだ愛は美しい。

鬼の戀
  • yondemill

鬼の戀

著者:
丸木文華
イラスト:
Ciel
発売日:
2014年08月04日
定価:
660円(10%税込)
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もう…戻れない。

生まれた時からずっと見ている。それだけでよかった。触れられなくても、本当の姿を見せられなくても。会わなければ、きっといつまでも一緒にいられるのだから。なのにお前は来てしまった。この鬼を祀る呪われた村に。血と罪に塗れたおぞましい欲望の供物になるとも知らず……! ああ今日も狂気に染まる。もう戻れない。お前を喰らってしまいたい――!
地獄の果ては極楽か、さらなる地獄か。さだめに抗う優しい鬼の純愛怪奇譚。

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登場人物紹介

水谷萌

水谷萌

父の遺言に背き、亡き母の実家・桐生家を訪れる。小さい頃から夢に出てくる「兄さま」に好意を抱いているが……。

桐生宗一

桐生宗一

桐生家の若き当主。萌に会うなり「帰れ」と言い、ひどい言葉ばかりをぶつける。傲慢で怠惰と言われているが……。

お試し読み

 生温い湯に落ちる感覚。むんと匂う噎せ返るような麝香の香り。
 全身をくまなく這う手の平。擦られる場所が火のように熱く火照る。荒い、切羽詰まった吐息が頬にかかると同時に、ねっとりと口を吸われる。
 にゅるり、と入り込んだ濡れた感触に、萌の鼻孔から甘く息が漏れる。
 熱い。熱い。
 唇を、歯ぐきを、舌を吸われる快美な心地よさに、萌の体の奥の官能がうねる。肌を這い回っていた大きな手の平は双つのむっちりと実った乳房をゆっくりと揉む。しこった赤い乳頭をこりこりと転がされ、甘美な電流が下腹部へと走り、萌は呻いて腰をくねらせる。
(あ、あ……気持ちいい……)
 夢中で舌と舌を絡ませながら、萌は体の下にあるなめらかな絹の敷布を悩ましく掻き毟る。愛撫する手の動きは次第に荒々しくなり、尖った乳首を執拗に吸われ、余すところなく皮膚を撫でていた手はやがて脚の間に入ってゆく。
(あ……あぁ……)
 萌は仰のいて快楽に震える。濡れそぼつ花びらの合わせ目を擦られ、張り膨れた陰核の包皮を剥かれ、優しくそこを撫でられて、間欠泉のようにとろりとした蜜がほとばしる。
 ぬるりと入る指の感覚は鈍い痛みを伴いながらも、萌の悦楽を壊しはしない。鼻孔に絡む濡れたような麝香の匂いを嗅ぎながら、萌は赤い唇を開けたまま、恍惚として肉体の悦びを味わっている。下肢から響く音は次第に大きくなり、 萌は腹の奥にぽうっと赤い火が灯り、切なげに揺らめくのを感じた。
 やがて、脚を大きく割られ、乾いた熱い肌が萌の柔らかな体を押しつぶす。ぱっくりと口を開いたそこへ滾る杭がずちゅりと音を立てて押し入ったとき、萌は鋭い痛みと共に、形容し難い、光の奔流がどうと身のうちに流れ込んでくるような、激しい衝撃を覚えた。
「あ……あ!」
 押し流されまいとするように、萌はのしかかる肉体にしがみついた。分厚い背に爪を立て、筋肉に覆われた太い腰に脚を絡ませた。
 侵入は尚も続いている。巨大な肉塊に体を裂かれながら、萌は四肢の先まで浸食されてゆくのを感じる。奥の院をぐうっと押し上げられ、その例えようもない激痛と、同時にこらえきれないほどの満ち足りた逸楽に、萌は全身を戦慄かせた。
(変わる……私が、私でなくなる……!)
 萌を侵食するものは内側から蠢き始める。激しく揺り動かされ、心身を食い荒らされる暴力的な法悦に耽溺し、萌は本能から動物のように喘いだ。
「ああ……あ……! ふうぅ……っ」
 絡まってゆく。強靭な蔦が瞬く間に萌の肉を、骨を、心臓を絡めとり、絶妙な振動でもって揺すり立てる。
「ああっ、あ、ひい、あ、あっ」
 柔らかな肢体を穿つ陽根は一層逞しく反り返り、うずく濡れた肉を火の噴くように捲り上げる。
「あ、あーーっ、あああーーっ!」
 喘ぎは叫びとなり、萌は全身の毛穴から汗を滲ませ、重く熱い肉体の下でのたうち回る。曖昧な世界は真っ白に眩く輝き、その閃光の中に埋没した萌は、体中が蕩けてゆくのを感じた。
「はあぁ……あ、ああぁ……」
 萌の蜜のような甘い声を吸い取るように、熱い唇がぴったりと萌の口に合わさり、きつく舌を吸う。
「んぅ……ふ、うう……」
 これが桃源郷というものなのだろうか、と萌は思う。すべての心のしがらみから解放され、未知の扉を開け放たれたかのような、肉体の快楽。汗に濡れた二つの体は境目もわからぬほどに混じり合い、延々と揺れている。
(あ……こんな世界が、あるだなんて……)
 いつの間にか体を貫く軋るような痛みは消え、萌はただただほとばしるような逸楽の中にいた。快楽や愉悦とはほど遠かったこれまでの萌の人生には、想像もできなかった極彩色の魅惑の園。
 ──ああ、ここはどこなのだろうか。私は何をしているのだろうか。
 そんな疑問は、次々に浴びせられる甘い歓喜の飛沫に掻き消されてしまう。けれど萌は、自分がこれに限りなく似通っている場所を知っていることに気がついた。
(そうだわ……ああ、ここは、まるで……)

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