
ストーカー魔術師の最愛 毎日求婚されてもお断りです
- 著者:
- 市尾彩佳
- イラスト:
- 氷堂れん
- 発売日:
- 2025年09月03日
- 定価:
- 902円(10%税込)
君を守ってあげられるよう、君の全てを把握しているよ
犯罪組織に攫われそうになったユリアーネは、麗しき最強魔術師ヘルブラントに助けられた。初対面の彼に求婚されたユリアーネは困惑するも彼がいきなり姿を消したため、求婚はうやむやに……。数年後、難関試験を突破したユリアーネは、ヘルブラントが団長を務める魔術師団の事務補佐官になった。恩返しするため仕事に邁進しているユリアーネにヘルブラントはなぜか毎日求婚してくるようになって?? 淡い想いを抱きつつも分不相応と断り続けていたが、ある事件をきっかけに彼と身体をつなげてしまい……。
駄々っ子魔術師×魔力なし平民事務官、身分差に阻まれる両片想いのゆくえは――?


ユリアーネ
孤児院育ちながら成績優秀かつ努力で王宮官吏になった。命の恩人であるヘルブラントに恋心を抱いているが……?

ヘルブラント
英雄と悪魔という真逆の二つ名を持つ魔術師。魔術開発と魔術具製作にしか興味がないが、ユリアーネに対しては……?
ユリアーネの思考が追い付かないうちに、ヘルブラントはくしゃりと顔を歪め、うつむいた。
「オリィが言うように順序が違うとダメなのかなぁ。これからお友達から始めて、お互いのことを知って、それからお付き合いして? そんなこと悠長にやってらんないよ。ずっと我慢してきたんだ。これ以上待ちたくない……」
恋愛は心の交流あってこそと思っているユリアーネには、オリフィエルがヘルブラントに教えている〝順序〟通りに進めるのが理想だ。
でも大人に成長していく過程を奪われ、二十九歳になった今も成長し切れていないヘルブラントに、お互いの理解を求めるのは難しいかもしれない。
そんなことを考えた自分を、ユリアーネは心の中で叱咤する。
(そもそもわたし、国のため、わたしたちのためにつらい生い立ちを背負ったこの方に、自分を捧げるのだと決めたんじゃない)
本当はヘルブラントの頬に手を添え顔を上げさせたかったけれど、彼の両手が縋りつくようにユリアーネの手を強く摑むから、代わりに間近にある彼の後頭部に頬をすり寄せる。
「ダメなんかじゃありません。さっきすぐに返事ができなかったのは、嬉しすぎて声が出なくなってしまっただけで」
ヘルブラントが顔を上げる。ユリアーネは手の代わりに唇で彼の頬を伝う涙をぬぐった。
「わたしだけが呼べるあなたの名前、嬉しいです──レイン」
驚き途方に暮れたような顔をするヘルブラントにそっと微笑むと、ユリアーネは唇を重ねた。
意外と柔らかい彼の唇の感触に、切なさがこみ上げてきて胸がいっぱいになる。
ユリアーネは自分でも気付かないうちに涙を流していた。
ユリアーネが唇を重ねると、ヘルブラントはユリアーネの身体をかき抱いて唇を強く押しつけてきた。その勢いで、雲のように柔らかなベッドの上に押し倒される。
先ほどと同じように食んでくる唇を、ユリアーネも食み返す。互いの唾液で口元がべたべたになっても、ちっとも嫌じゃなかった。
それどころか、滑りがよくなって思うままに唇を動かせる。されるがままだったユリアーネも、積極的に彼の唇を求めた。顔の角度を変え、唇の重なる方向を変えながら。
初めてより荒々しくない、情熱的でありながらも穏やかなキスは、ユリアーネの唇全体をぴりりと痺れさせた。その痺れは頭の芯をとろけさせ、ユリアーネからそれ以外の思考を奪い去っていく。
(気持ちいい……)
その感覚にひたっていられたのは、少しの間だけだった。
息苦しさに耐えられず、ヘルブラントの二の腕を叩く。
ヘルブラントが唇を離したとたん、ユリアーネは大きく息を吸った。
「ぷはっ」
「……大丈夫?」
一度にとどまらず何度か肩で息をするユリアーネに、心配そうに声をかけてくる。
呼吸が落ち着いてきたところで、ユリアーネは訝しげに尋ねた。
「……レインは息苦しそうじゃないですね?」
ヘルブラントは特別な名前を呼ばれたのが嬉しかったのか、にこにこしながら答える。
「うん。ユリアーネが教えてくれたように鼻で息をしたから」
魔術以外でも天才か。
ヘルブラントは不思議そうに尋ねてきた。
「ユリアーネは鼻で息しなかったの?」
(そう簡単に実践できたら世話ないです)
自分の出来の悪さに凹みながら、心配になって尋ねた。
「あの。わたしは学生寮で座学を受けたので知識としては一通り知っているんですが、レインはその、ご存じなんですか?」
何を、とまでは口にできず言葉をにごしてしまったが、ヘルブラントには通じたようだ。こんな言葉が気軽に返ってくる。
「ああうん。僕はオリィに『これ読んどけ』って本を渡されたよ。女性は心身ともにデリケートだから、慎重に進めるべきって書いてあった。──そうそう。女性には準備が必要なんだよね? 準備しないとすごく痛い思いをさせてしまうって本に書いてあった。痛みを感じなくさせる魔術もあるけど、よほどのことがない限り使わないってことでいい? 使ってしまうと、貴女を傷付けてしまってもわからなくなるんだ。準備の方法は本に書いてあったし、貴女の意見を聞きながら慎重に進めるから。──僕がいろいろわかってないから不安にさせちゃうんだと思うんだけど、できたら任せてほしい」
付け加えてくれた言葉を聞いて、ユリアーネの心配がすとんと落ちた。
普段から「何で?」を口癖のように言うヘルブラント。最中にユリアーネが何か言っても、その一言でユリアーネの言葉をなかったことにして彼のしたいことを優先するかもという不安があった。何しろ知識としては知っていても、実際にするのは初めてのこと。未知のことへの恐怖もある。
でも、ヘルブラントは自分が他人にどう思われているか理解していて、その上でユリアーネの意見を聞き慎重に進めると約束してくれた。
(これだけ言ってもらえたんだもの。怖がるほうが失礼だわ)
ユリアーネは尻込みしていた自分をえいやっと押し出して返事をする。
「わたしも初めてなのでよくわかっていないのですが、その、よろしくお願いします」
ヘルブラントは嬉しそうに目を細める。
「ありがとう──優しくする」
甘い声音で耳元に囁かれ、ユリアーネはぼっと顔を熱くした。
ユリアーネは恥ずかしさと混乱の中でこんなことを思った。
(魔術は使われてないわよね?)
再び始まったキスにとろけている間に、ユリアーネはあれよあれよという間に下着姿にされていた。ジャケットとブラウスを脱ぐときには一度身体を起こされたけれど、すぐまた押し倒され、腰を持ち上げられてスカートを引き抜かれる。それをキスの合間にできてしまう。これで未経験らしいから驚きだ。
(魔術以外でも天才過ぎます……!)
スカートをベッドの外へ放ったヘルブラントは、自身のジャケットも素早く脱いでシャツ一枚になり、ユリアーネをまたいで覆い被さってまたキスをしてくる。
唇が触れ合うだけで、ユリアーネの脳はとろけた。
ヘルブラントのキスは、たった数回で驚きの成長をとげた。厚みがあって長い舌はユリアーネの口の中をすみずみまで愛撫し、時折舌先を吸ってはユリアーネに得も言われぬ戦慄きを与えてくる。
ヘルブラントはキスをしながらユリアーネの両胸に両手を置いた。
熱くて大きな手のひらを胸に感じ、ユリアーネはキスを受けながらびくっと身体を跳ねさせる。
キスを中断したヘルブラントが、心配そうに顔を覗き込んできた。
「大丈夫?」
不安げに揺れる瞳はここで止めたくないと訴えてきている。
未知の感覚に驚いただけで、もちろん大丈夫じゃないなんてことはない。
とはいえ恥ずかしくて声が出ず、こくんと頷いてみせた。ヘルブラントはほっとしたように微笑み「よかった」と言うと、キスを再開し、胸への愛撫を始める。
大きすぎも小さすぎもしないユリアーネの胸を優しくこねる。このようにされることが初めての胸はちょっと加減を間違えただけで痛みを感じる。ユリアーネが訴えたわけでもないのにヘルブラントには感づかれてしまい、その都度「ごめん」と謝られて力加減をされた。
その気遣いに胸が温かくなる。
丁寧にこねられたおかげか、さほど時間がかからず胸は柔らかくなった。両胸を鷲摑みにされてももう痛くない。寄せ上げられたり押しつぶされたり。そうされているうちに、胸が早鐘を打って全身に今まで感じたことのない感覚が行き渡る。
ヘルブラントが胸をこねるのをやめ、両胸の先端をつまむ。
「あっ」
敏感な蕾への強い刺激が、それまでの感覚を上塗りする。
身体が敏感になり、こらえようもなくびくびくと震えた。