ソーニャ文庫

歪んだ愛は美しい。

軍神の涙
  • yondemill

軍神の涙

著者:
桜井さくや
イラスト:
蜂不二子
発売日:
2015年11月01日
定価:
682円(10%税込)
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おまえを奪い返しにきた。

隣国の王弟と再婚することになった母とともに故国を離れたアシュリーは、その隣国でたった一人、塔に軟禁されてしまう。彼女の心の拠り所は、意地悪で優しい従兄のジェイドと過ごした、故国での懐かしい日々。だがある日、城に突然火の手があがる。混乱に乗じて塔を抜け出したアシュリーが目にしたものは、横たわる母と、血に塗れた剣を握る禍々しいジェイドの姿。彼はアシュリーに「城の者たちを助けたいなら純潔を捧げろ」と言ってくるのだが……。

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登場人物紹介

アシュリー

アシュリー

母の再婚にともない、幼い頃に隣国へわたった。とある理由で、何年もたった一人で塔に軟禁されている。

ジェイド

ジェイド

アシュリーの従兄。幼い頃は戦争を嫌いっていたのだが、いまや“軍神”とまで呼ばれ、敵味方に畏怖されている。

お試し読み

「おまえも脱げよ。話はそれからだろ」
「あ…っ」
 落ちこんでいると溜息まじりで言われてハッとする。
 それが助け舟のつもりだったかは知らないが、自分だけ服を着ているのは確かにおかしい。納得したアシュリーは一旦ベッドから下りて気持ちを落ちつかせ、先ほど着たばかりのエンパイアドレスを脱ぐことにした。
 身を隠す必要がない分、着るときよりも脱ぐほうが簡単だ。
 腰より高い位置で結んだサッシュを解き、そこで手を止めて目を泳がせる。僅かに躊躇する気持ちがあったが、大きく息を吸ってその感情を押しこめ、纏っていた服を一気に脱ぎ捨てた。
 アシュリーは、たったそれだけで生まれたままの姿になってしまう。
 なぜなら下着を身につけていないからだ。
 ローランドではそういう習慣がないのか、これまで一度も下着を用意してもらったことがなかった。もはやそのことに疑問さえ抱かなくなっていたが、今はすぐに裸になってしまったのを恥ずかしく感じた。
 しかし、そんなアシュリーを見てジェイドは呆れた様子で息をつく。
 びくっと震えていると、たった今まで感じていた恥じらいなど一瞬で消し飛ぶようなことを言われた。
「母の敵と思っている男に、そこまで言いなりになるのは屈辱じゃないのか?」
「……ッ」
 一気に血の気が引いていく思いがした。
 アシュリーは唇を?みしめ、震えそうになる手で拳を握る。
 言うとおりにしたのだから我に返るようなことを言わないでほしい。
 屈辱なんて、あるに決まっている。
 だけど、今それを考えてしまえば、故郷を愛おしんでいた自分に絶望して泣き叫びたくなってしまう。人殺しと彼を罵り、初恋だったのにと感情的になってしまう。
 そんなことができるわけがない。
 下手なことをしてエリックの身に危険が及んだらどうする。
 本当はしたくないなんて口が裂けたって言えない。自分さえ我慢すればうまくいくことを、台無しにできるわけがないだろう。
 アシュリーは叫びだしたい気持ちをぐっと堪え、唇を固く結んでその感情を表に出さないようにした。
「おまえ、つまらない顔をするようになったな」
「つまらない……?」
「ああ」
「……」
 続けざまに酷いことを言われて、アシュリーはますます落ちこんでいく。
 不細工だと言いたいのだろうか。
 けれど、そう言われてもわからない。北の塔には鏡なんてなかったから、窓に映るぼんやりした自分の顔しか見ることができなかった。
 アシュリーは息を震わせながら、溢れだしそうな感情を必死に押しこめる。
 こうやっていちいち心を乱されるからいけないのだ。最後までする覚悟を決めたのだから、余計なことを考えては前に進めない。アシュリーは息を吸いこみ、裸を隠すことなく彼の前に立ち、膝に置かれていた大きな手を取った。
「こ、この身体では…、その気になれない? 胸は大きくなったと思うのだけど」
 このままではジェイドは何もしてくれないだろう。
 ならば自分から動くしかないと思い、アシュリーは意を決して彼の手のひらを自分の乳房に押しあてた。
 指先がぴくんと動いて、ほんの少し力が込められる。
 反応してくれたということだろうか。
 さらに強く胸を押しあてて顔色を窺う。すると、ジェイドは苦笑を浮かべて浅く息をつき、目を伏せてゆっくりと一度だけ頷いた。
「確かに、昔とは違うな…」
「んッ」
 その直後、胸に押しあてた彼の手にぐっと力が込められる。
 今度こそはっきりとした意志を持って乳房を揉みしだかれ、指と指の間で乳首が挟まれると少し強く引っぱられて、背筋にぞくっとした感覚が走った。
「あ…っ」
「……いいだろう。おまえを抱いてやる。だが俺は途中で止めたりはしない。やっぱりできないなんて言うなよ」
 ジェイドはアシュリーの腰に腕を回すと力強く抱き寄せてきた。
 彼の太ももの上に乗せられる恰好となり、身体を密着させながら間近で見つめ合う。その間も大きく円を描いて胸を揉まれ、もう片方の手は指先で背筋を撫でるように柔らかく引っ?かれた。
「ん、はぁ…ッ」
「少し口を開けろ」
 耳元で低く囁かれて鼓動が速まり、よくわからないままその言葉に従う。
 途端にジェイドの唇が近づき、重なったと同時に熱い舌がアシュリーの唇の奥へと潜りこんできた。
「ん、んんッ!」
 しかしそれは、アシュリーの知らない行為だった。
 ただ唇を重ねるだけと思っていたのに、侵入したジェイドの舌にぐるっと歯列をなぞられる。目を見開いていると今度は上顎を突かれ、戸惑う舌に絡みつかれてしまった。
 驚いてその舌から逃れようとするも、蛇のように巻きついて離れない。
 くぐもった声で動揺を伝えたが、喉に流れこむ二人分の唾液で咽せそうになり、それを飲みこむのが精一杯になってしまう。
「ん、んく、ん、ん…ッ」
 気がつくとアシュリーは彼にのしかかる形でベッドに倒れこんでいた。
 端から見れば自分から襲いかかっているような体勢だが、唇が離れないように後頭部を手で押さえられて、逃げられないようにもう一方の手が腰に回されているため、主導権は完全にジェイドが握っている。
 巻きつく舌は逃げようとするほどきつく絡められた。
 このままでは自分の舌が引っこ抜かれてしまうのではと怖くなるほどだった。

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