ソーニャ文庫

歪んだ愛は美しい。

抱いてください、ご主人様!

抱いてください、ご主人様!

著者:
飯塚まこと
イラスト:
ひのもといちこ
発売日:
2017年03月03日
定価:
704円(10%税込)
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どうした、誘ったのはお前だろう?

父親の借金のせいで娼婦になったサラ。知識ゼロの見習いなのに、いきなり大貿易商チェスターの専任に!? 与えられた役目は、彼の“女嫌い”を治すこと。彼が女を抱けるようになれば、莫大な報酬が支払われる。無い知恵を絞り、必死に彼を誘惑するサラ。けれどいつも軽くあしらわれ、余裕の彼に翻弄されてしまう。最後までは抱かないくせに、濃厚なキスと優しい愛撫でサラに快楽を教え込むチェスター。彼はサラの誘い方を「不正解」と言うのだが……?
“女嫌い”の大富豪×見習い娼婦、
期間限定の愛人契約!?

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登場人物紹介

サラ

サラ

父親の借金のせいで娼婦になる。借金取りから逃げていたところで、チェスターと運命的な(?)出会いを果たす。

チェスター

チェスター

女性に触ると気分が悪くなる体質をしているが、サラだけは平気な様子。サラの誘惑を余裕でかわしているが……。

お試し読み

「今日は誘惑しないのか?」
「きょ、今日は気分じゃないの」
「何故だ?」
「な、何故って…言われても……」
 ゴニョゴニョと口ごもりながら言い訳を探す。
 借金を返して娼婦から足を洗うためにはチェスターを襲わなければいけないのだけれど、胸に宿り始めてしまった未知の感情がチェスターを見るたびに反応してしまう。
 そもそもこんなに童貞を奪うのが大変だなんて思ってもいなかった。少し色っぽい姿を見せたら簡単に進むと思っていたのに。
 チェスターをちらちらと盗み見ながら、ドレスのスカートを握る。
 優しいけれどどこか意地悪にも思える笑顔に胸が締め付けられるが、自分の立場を思い出してキュッと唇を引き結んだ。
「やっぱりやるわ」
 ソファーにゆったりと座るチェスターに近づいて、先ほどとは反対のことを言う。
 チェスターは開いていた本に栞を挟みサイドのテーブルに置くと、両腕を軽く広げた。
「どうぞ」
 まるで歓迎しているかのような態度に思わず身体が固まる。
 立ち竦むサラと数秒見つめ合ったチェスターは、襟元を緩めながら挑発的な目をサラに向けてきた。その表情には余裕の笑みまで浮かんでいる。
「前から思ってはいたが……サラはオレを本気で誘惑するつもりはないようだな」
「そんなことない。私は本気!」
「なら今が絶好の機会だ。遠慮なく誘惑してくれ」
「っ……」
「どうした? 目が泳いでいるぞ」
「えっ! ちょっ!」
 手首を?まれ引き寄せられソファーに引き上げられると、いつの間にかサラはチェスターの下に転がされていた。
 吐息がかかりそうな距離に、体中の血液が沸騰しそうになる。慌ててチェスターの身体を押し返そうとするが、サラが行動を起こすよりも早く、彼に指を絡めるようにして手を繋がれ、ソファーに縫い付けられてしまった。
「チェ、チェスター!」
「続きは?」
「え?」
「続き。ここからどうするんだ?」
「ど、うするって、言われても……」
 視界いっぱいに広がるチェスターの姿に心臓が暴れ出す。
 目を泳がせてもまったく意味がなかった。
 氷のように固まったままチェスターの緑色の瞳を見上げていると、形の良い唇が静かに笑みをつくった。
(つ、続きは……何を、すれば良いんだっけ……)
 チェスターはサラの戸惑いをよそに、微笑んだまま上半身を倒すと、長い睫毛を伏せて唇を重ねてきた。
 それはまるで羽根で触れられたかのような、不思議な感覚だった。
 ほんのりと感じる温かさにサラの瞳が揺れる。
 顔を上げたチェスターは乱れたサラの髪を指で掬い取ると、まるで見せつけるように髪先にキスをした。その姿に、サラは顔を赤くする。
(今、今、私……チェスターと……)
 サラはチェスターの感触の残る唇を隠すように両手で覆う。
 動揺するサラとは対照的に、チェスターは艶やかな唇からチロリと赤い舌先を覗かせて意地悪い笑みをサラに向けてきた。だが、その笑顔はすぐに別の表情へと変わる。
 多分チェスターの想像していたサラの反応とかけ離れていたからだろう。毎日のように色仕掛けをして迫ってくる娼婦とは思えない初々しい反応を前にして、チェスターは少しだけ驚いた様子を見せてから、何かを考えるように視線を下げる。
 やがてふと、「あぁ、そういえば」と独り言のように呟いた。
「サラ、お前はまだ客を取ったことがないんだったな。つまり男に抱かれたこともない。違うか?」
「…………」
「キスも初めてか?」
「っ!」
「顔が真っ赤だ」
「見ないでっ!」
 口元を隠していた手を取られて顔を覗き込まれる。
 恥ずかしさのあまり強い口調で反抗しながら顔を背けるサラに、チェスターは楽しそうに笑みを深めた。
「どうりで誘い方に色気がないわけだ」
「笑わないでよ!」
「サラ、顔を背けるな。こっちを向け」
「嫌! 一生嫌!」
「言うことがガキだな」
「ガキじゃないわ!」
「ならこっちを向けサラ。大人の女ならキスくらい余裕でこなせるはずだ」
「よ、余裕に決まってるでしょう! 私は立派なレディーなんだから、キスの一つや二つや三つや四つ……」
 チェスターはサラが挑発に乗りやすい性格だと知っているため、分かりやすい喧嘩を吹っ掛けてくる。
 サラはまんまと、背けていた顔をチェスターに向けてキッと強気に睨みつけるが、視線は彼の唇に引き寄せられて、また恥ずかしさが込み上げてしまう。
 怖い顔で睨んでもすぐに限界が来てしまい、最後にはそっと目を逸らしたサラに、思わずといったようにチェスターがフッと噴き出した。
「だから笑わないでってば!」
「笑ってない、笑ってない」
「肩が震えてるわ! 体重をかけないで! 潰れるでしょう!」
「こんなに笑ったのは久しぶりだ。腹の筋肉が痛い」
「やっぱり笑ってるじゃない! どいてよ!」
「もう少しだけ」
「嫌! もう寝るからどいて!」
 サラの肩口に顔を埋めて苦しそうに笑っていたチェスターは、サラの言葉に顔を上げると、飾り棚に置かれた振り子時計を見遣る。
 大人が寝るにはまだ早い時間だった。咄嗟についた嘘に、また子供扱いされてからかわれてしまいそうで、サラはしまったと顔を顰める。
 チェスターはニヤッといじめっ子のような顔で笑うと、何故かサラを肩に担ぎ上げ立ち上がった。
「な、何するの!」
「寝るんだろ。オレとのキスで腰が抜けたようだから、ベッドまで運んでやる」
「自分で行けるわ!」
「立てるのか?」
「立てっ……ないけど、時間が経てば平気! それに何度も言うけど私は荷物じゃないんだから、小脇に抱えるのも肩に担ぐのも禁止!」
 すでに廊下を歩いていたチェスターは、サラの怒りを聞き流しながら目的の部屋に着き行儀悪く足で扉を押し開いたところで、サラを横抱きに抱き直した。
 荷物扱いされるのは気に食わないけど、まさかお姫様抱っこをされるとは思ってもいなかった。
「……っ」
 急にしおらしくなったサラを見下ろしたチェスターは満足げな顔をすると、ベッドの上にサラの身体をゆっくりと下ろして、そのままサラのベッドに入り込み彼女の身体を引き寄せた。

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