ソーニャ文庫

歪んだ愛は美しい。

queen

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著者:
丸木文華
イラスト:
幸村佳苗
発売日:
2019年12月02日
定価:
704円(10%税込)
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どうでもええ。俺には椿様がおればええ。

人魚の宝が眠るとされる『夜海島』。その島の網元の娘・椿は、得体の知れない妾の子として、島民の羨望と嘲笑とを同時に集めていた。だが彼女には、逞しくも美しい“狂犬”が常に寄り添っている。8年前島に流れ着き、椿によって助けられた記憶喪失の青年・潮だ。閉鎖的な島で、椿は彼にだけ心を開き、彼も盲目的に椿を崇拝していた。互いに恋情を抱きつつ、主従の関係を貫いてきた二人。しかしある出来事をきっかけに、官能の深みにはまってゆき――。
寡黙な狂犬と妖艶な網元の娘の、明治純愛怪奇譚!

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登場人物紹介

堂元椿(どうげん・つばき)

堂元椿(どうげん・つばき)

夜海島の網元の娘。魅惑的な容姿をしており、母違いの兄に欲望の目線を向けられている。

潮(うしお)

潮(うしお)

島に流れ着くまでの記憶がなく、潮という名は椿がつけた。椿の気高さに心酔し、彼女の身を守っている。

お試し読み

「椿様……なんや体が熱い。どねえしたんじゃ」
「ああ……兄様に妙なもんを飲まされてしもうて」
 感激に押し流されていたが、行雄に使われた薬はまだ椿の体を疼かせている。
「お前には眠り薬を、わしにはこねぇなもんを飲ませよった。体が熱うてたまらんのじゃ」
「大丈夫か。気分が悪うなるもんなんか」
「気分が悪いちゅうか……これは媚薬じゃ。疼くんじゃ……」
 ようやくその意味に気づいた潮は、赤銅色の顔にさっと血の気を走らせた。
 ずっと抱き合っていた椿の体はほとんど浴衣がはだけた状態であることにも今更思い至った。あられもない椿の肢体を見た潮の体は熱くなり、慌てふためいた。
「す、すまん、椿様……俺は、何も知らんで……」
「ええんじゃ。お前ならええ。何でもええ」
 身を引こうとする潮に、椿は抱きつく。
「兄様に襲われて、犯されることを覚悟した。お前が来てくれんかったら、実際そうなっとった。しゃぁけど、わしの心は、お前だけを想っとった。わしはすでに心をお前に捧げとる」
「椿様……」
「お前も、わしにすべてを捧げとる言うたな、潮」
 潮をじっと見つめる。意図せずとも潤む瞳には潮の顔しか映っていない。
「ほんなら、お前をわしにくれ。わしの男になってくれ」
「……ほんまに、ええんか」
「ええ。お前がええ。お前以外は嫌じゃ。お前だけがええんじゃ、潮」
 潮は椿を固く抱き締め、唇を重ねた。冷たいと思っていた潮の皮膚はすでに熱く火照り、水に濡れた着物を脱ぎ捨てた潮の肌は太陽のように燃えていた。
「椿様……俺は……必ずあなたのために死ぬと誓う……」
「そねぇなことは許さん。死ぬなよ、潮。これは命令じゃ。わしを置いて死ぬなよ」
 布団の上に倒れた二人は、少しの隙間もないほどにぴたりと重なり合い、互いの肌を撫で、擦り、揉みながら、唇を、舌を合わせ、絡ませ、必死で求め合った。
 待ち侘びた潮との接吻は感動よりも、唇を合わせるほどにもっと欲しいもっと欲しいという限りない欲求が腹の奥から込み上げ、食らいつくようにねだってしまう。
 媚薬で高まった椿の肉体は渇いた者が水を欲するように潮を求め、脚を開いて腰を浮かせ、しとどに濡れそぼつそこを自ら男の硬いものに擦りつけた。
「あ、はあ、椿様……」
 限界まで昂ぶっていた潮は、ぬるりと潤う狭間へあまりにも自然に分け入った。穴蔵を見つけた蛇がそこへ潜り込むのと同じように、潮は椿の中へ埋没した。
「うっ……、あ、あぁ」
 鈍い痛みがあった。引き裂かれるような感覚に、椿は目を見開いた。
 けれどその痛みは鋭い快感でもあった。それは恐らく行雄の薬のためだろう。潮が腰を進め、深々とすべてを収めたとき、あまりに腹をみっちりと満たされた感覚に、椿はまるで潮を丸ごと呑み込んだような心地になった。
「腹が、いっぱいじゃ……腹が潮で膨れとる……」
「俺は、椿様に食われてしもうたようじゃ……」
「潮は全部わしのもんじゃけぇ、構わんじゃろ」
 くすくすと笑いながら口を吸う。交わったのは初めてのはずなのに、このあるべき場所に還ったかのような快さは何なのだろう。
 やがて潮が徐々に動き出したとき、椿は喉の奥から自然と甘やかな声がこぼれるのを覚えた。あぁ、ああ、ええ、ええわ、とまるで色事に慣れた年増女のような、自分でも媚びていると感じるような蕩けるような声音である。
 椿が喘げば潮は漲り、腹の蛇は硬く膨らみ反り返る。それは図々しいほどに椿の奥までぐうっと首を伸ばし、臓腑をその頭でずんずんと重く突き上げる。
 口から飛び出しそうだと錯覚するほどのその衝撃は、薬なしではきっとひどく苦しいものだっただろう。けれど、幸か不幸か兄の策略のお陰か、はたまた村人たちの言う通り椿が淫売だったためか、初めての交合は椿に灼熱の快楽しか与えなかった。

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