ソーニャ文庫

歪んだ愛は美しい。

奈落の恋

奈落の恋

著者:
山野辺りり
イラスト:
吉崎ヤスミ
発売日:
2021年12月03日
定価:
792円(10%税込)
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生涯一度きりの恋、地獄へ堕ちても共に。

王と一度も閨を共にしたことがない王妃リアナ。暴政から民を守るため先王妃と王から蔑まれても耐え忍び、幼い頃から共に育った護衛騎士ユーウェインが側にいてくれることを心の支えにしていた。そんなある日、王が意識不明の重体になってしまう。跡継ぎがいないまま王が崩御すれば、王位を巡って争いが起きかねない。それを回避する術に悩むリアナの寝室に現れたユーウェインは彼女の身体を暴いて純潔を散らし『密通』という大罪を犯してしまい……。

護衛騎士×純潔の王妃――誰にも祝福されない背徳の共犯者。

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登場人物紹介

リアナ

リアナ

純潔の王妃。王に蔑ろにされながらも、暴政から民を守るために力を尽くす。護衛騎士ユーウェインが心の支え。

ユーウェイン

ユーウェイン

リアナと共に育ち、彼女が輿入れする際に護衛騎士となった。盲目的な忠誠心でリアナの幸福だけを望むが……。

お試し読み

 一線を越えてしまえば、二度と戻れない。
 王妃と護衛騎士として傍にいることすらできなくなるに決まっていた。自分は不貞行為を働いて、素知らぬ顔で過ごせるほど器用な女ではない。
 強かになりきれず、それでいて淡い恋心を断ち切ることもできない狡い小娘でしかなかった。もしや、卑怯であった罰を今夜受けているのか。
 ユーウェインを愛しいと叫ぶ心を宥めすかし、リアナは懸命に身をくねらせる。どうにかして彼の身体の下から抜け出そうと足掻けば、乱暴なキスで抵抗心を奪われた。
「んぅ……っ」
 甘い。あまりに甘美で、蕩けてしまいそう。
 身体の一部を触れ合わせ、粘膜を擦りつけるだけの行為が、こんなにも危険で素晴らしいものだったなんて、知らなかった。
 一度味わってしまえば、逃れられなくなる。
 何故なら本心では、ユーウェインとこうなることをリアナは夢見ていたのだから。考えることだけでも罪深いと自覚しつつ、それでも願望は常に胸の中にあった。
 この世で最も愛する人と恋人のキスを交わせたなら、どんなに素敵なことだろう。
 許されないからこそ、夢想することで自分を慰めてきた。
 それが今、現実のものになっている。
 口づけは、この世のものとは思えない罪深い味がした。漆黒の闇に溺れてゆく。
 助けを求めるために叫ばなくてはと考える端から、リアナの抵抗は形だけのものに成り果てた。
「……諦めてくださいましたか? 良かった。リアナ様に傷を負わせる真似はしたくありません。そのまま───大人しくなさっていてください」
 今から女を襲おうとしている人の台詞とは、到底思えなかった。
 声も優しく、これが愛情と同意がある行為なのではないかと、錯覚する。
 ───もしかして全て、私が見たい夢を見ているだけ……?
 何が正しいのか霞んで、夜に呑み込まれる。安眠を誘う香りが動くたびに枕から立ち上った。
 馨しい花の香は、現実感を一層希薄にする。これは悪夢かそれとも吉夢か。
 半身を起こしたユーウェインが騎士服を脱ぎ捨ててゆくのを、リアナは呆然と見上げることしかできない。
 禁欲的で誠実さの象徴だった服が一枚ずつ剝がれれば、その下から現れたのは目を見張るほど見事な『男性』の肢体だった。
「や……っ」
「───ああ、リアナ様は男の裸を見るのは初めてですか? ではどうぞ、その目に焼き付けてください。貴女の初めてを奪うのが誰なのか、しっかり思い知りながら」
「何故、意地の悪いことを……っ」
 咄嗟に目を覆った自身の手を顔から引き剝がされ、リアナはぎゅっと瞳を閉じた。だが瞼に口づけられ、耳朶を食まれては、驚きで刮目せざるを得なくなる。
「大事なことでしょう? それに、貴女だけを裸にするのは流石に申し訳ないと思うからこそ、私も裸身を晒しているのです」
 気を遣ったのだと言わんばかりの言い草に、虚を衝かれた。
 もしリアナのためだと欠片でも考えているのなら、やめてほしい。どこを見ればいいのか分からず、まともに呼吸すらままならない。
 いくら目を逸らそうと試みても、彼の肉体美は眼裏に焼き付いてしまった。
 張りのある肌の艶も、盛り上がる筋肉の造形美も、引き締まった腰の括れまで。
 何もかも、これまでリアナが知らなかったものだ。きっとこれから先も知る機会は来ないと思っていた。
 それをまざまざと見せつけられ、混乱の極致にある。いっそ叫び出したいのに、震える喉は役立たずだった。
「───失礼いたします」
 胸元のリボンを解かれ、大きく襟ぐりを開かれた。肩から鎖骨が露になり、空気の流れを肌に感じる。
 布越しに乳房を掴まれれば、リアナは全身を強張らせた。
「やめ……っ」
「暴れないでいただけますか? 縛って貴女の手首を傷つけたくない」
 つまりこれ以上拒めば、ユーウェインはリアナの両手を戒めるつもりがあるということだ。そんな扱いをされたことは当然なく、問答無用で心が委縮する。
 しかしルクレティアに打擲されるのとは、またわけが違う。ユーウェインの脅しは、心なしか淫らな誘惑も伴っていた。
「ひ、酷いことをしないで……」
「───それはお約束できません。今から私がすることは、きっと清廉なリアナ様を苦しめる。ですから───憎んでいただいて結構ですよ」
 憎めばいいと漏らす唇で柔らかなキスを施され、リアナの気持ちは乱高下した。
 触れる手の熱さと強引さ、それでいて最大限の配慮がされているような力加減。辛辣な言葉の数々に、思いやりの滲む声。
 相反するそれらが、リアナを惑乱させる。
 これまで共に育ったユーウェインと、印象が違いすぎる男のどちらが本物なのか、分からない。
 何を信じればいいのか曖昧になり、結局無為に睫毛を震わせるのが精一杯だった。
「ひ……っ」
 乱されていた寝衣を脱がされ、下着も奪われれば、生まれたままの姿になる。肌が直接他者と触れ合う感覚が、半ば呆然としていたリアナの意識を引き戻した。
 熱くて、硬い。
 女のものとは違う触感が性差の違いを突きつける。それはそのまま、罪深さの象徴でもあった。
「いけない……っ、ユーウェイン……! こんなこと、か、神様がお許しにならないわ」
「どれだけ願っても祈っても、何一つ与えてくれなかった神に、いったい何を望みますか? そんなものが本当に存在するなら、とっくの昔に私を救ってくれたはずです」
嘲笑う彼の唇は、歪な弧を描いた。
 ───貴方は、私の前では何も気にしていないそぶりを見せてくれていたけれど、本当はずっと辛かったの? 
 これまでユーウェインが自身を憐れみ嘆くのを聞いたことがない。いつだって彼は、誇り高く背筋を伸ばしていた。
 両親の名前が明かされなくても。貴族の子息であれば当たり前の権利を手にできなくても。
 関係ないとばかりにひたすらリアナに尽くしてくれた。だが実際には苦しんでいたのだろうか。
 欠片も思い至らなかった自分の浅はかさに辟易する。誰よりユーウェインの傍にいたのは、リアナ自身なのに。
「───安心なさってください。全ての罪は私が被ります。許されないのは、私だけ。リアナ様は何一つ悪くはありません」
 それがどういう意味か問う前に、男の指が白い肌を辿り、愉悦が刻まれた。汗ばむ皮膚は、線を描かれた場所が発火しそうになっている。
 リアナが浅い息を吐くと彼が双眸を細めた。
「恨みも呪いも、怒りも全部、私だけに向けてください」
 負の感情であっても、全てが欲しいと乞われている心地がし、眩暈がする。きっと錯覚でしかないのに。
 強い想いは、さながら恋慕に似ている。
 ただ一人の人を思うだけで心音が乱れ、姿を見れば目が惹きつけられる。名前を聞けば考えずにはいられない。
 頭の中はその人で一杯。下手をすれば一日の大半を囚われることにもなる。
 愛でも、憎悪でも。
 それを分かった上で言われている気がして、束の間リアナの思考が真っ白になった。
 青い瞳がまっすぐ見下ろしてくる。
 瞬くたびに距離が縮まり、再び濃厚な口づけを施された。
「───ぁ……」
 もうキスを拒絶することすら忘れていた。
 鼻を擦り合わせ、舌を伸ばすことを求められても、抗えない。抗いたくなかった。
 考えることを放棄して、欲望の虜になる。
 ユーウェインの手が直に乳房を掴み揺らしても、リアナは黙って受け入れた。その手が腰を通過し、脚の付け根へと向かっても。
「ん、ん……っ」
 下生えを掻き分けた指先が、卑猥な肉芽を探り当てた。そこは既に膨らみを帯び、触れられることを待ち望んでいたかのように硬くなり始めている。
 微かにユーウェインの爪が掠めただけで、リアナは四肢を戦慄かせた。
「……ぁ、あッ」
「ああ……少しだけ濡れています。リアナ様のここは、私を嫌っていないようで安心しました。それとも、期待してくれていましたか?」
「ち、違……っ」
 何に対しての否定なのか判然としないまま、リアナは涙目で頭を振った。
 彼の手を阻もうとしても、身体が意思に反して動かない。拒まねばと頭は判断を下すのに、連動しない手足がバラバラになってしまったかのようだ。
 ラベンダーの香りが広がって、闇が色づく。黒一色だった世界を淫靡な色彩が染めていった。
 ───駄目なのに……っ
 慎ましさをなくした花芯を扱かれると、理性が食い荒らされてしまう。何度己を律しようとしても、ユーウェインを押しのけることはできなかった。
 その間に首や胸に吸い付かれ、刹那の痛みを刻まれる。幾度も落とされた彼の唇は、リアナの内側に劣情の火を灯した。
「は、ぁ……っ」
 くちくちと淫音が下肢から奏でられる。内腿をとろりとした滴が伝い落ちる感覚があった。
「大声で助けを呼ばないのは、ご自身のあられもない姿を見られたくないからですか? それとも───私を庇うおつもりですか?」
 そんなこと、答えは決まっている。後者でしかない。だがそれを告げる暇もなく、ユーウェインの指先が花弁の内側に沈められた。
「ひぁ……っ」
 初めての異物感に、体内が甘く収斂した。
 僅かに引き攣れる痛みはあるものの、それを上回る疼きが生まれる。男の指先が緩く往復するたびに濡れ襞が擦られ、得も言われぬ喜悦を呼び覚まされた。
「───答えなくて結構ですよ。私も……少しくらい夢見ていたいので。それにどちらにしても、誰もこの部屋に入って来やしません」
 リアナの晒した喉へ触れた彼の唇が、微かに震えていると思ったのは気のせいだろうか。
 涙の膜が張った瞳では、よく見えない。そもそも暗闇が濃すぎて、全てがもどかしく隔たれている。
 リアナが空中に伸ばした手は、何も掴めずに虚空をさまよった。
 その手を。
 ユーウェインの左手が優しく包み込んできて、深く指を絡ませられ、シーツの上へ戻された。押さえつける動きとは違い、どこまでも丁寧に優しく。
 瞬間、落ちた沈黙に胸が痛いほど引き絞られた。
「───私を、許さないでください」
「ぁ、あ、ァ……ッ」
 内壁を摩擦する指の動きが激しくなる。粘度のある水音を響かせ隘路を掻き回されると、下腹の奥がきゅうきゅうと戦慄いた。

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