ソーニャ文庫

歪んだ愛は美しい。

のろいがみ

のろいがみ

著者:
丸木文華
イラスト:
斑目りん
発売日:
2024年04月03日
定価:
825円(10%税込)
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そなたは我のものにならねばならぬ。

戦国時代、忍びの仕事で潜入した城で、異様な壺とともに監禁された不思議な娘と出会った静。娘は人の死が見えるせいで幾度も攫われてきたという。哀れに思い連れ帰った静は、その者が実は少年で、ある特徴を持っていることに驚くが、無邪気な彼を捨て置けず、センと名付けて一緒に暮らすことに。二年後、センは甘えん坊な質はそのままに、見上げるほどに大きくなっていた。だがある日、静が村の男と結婚させられると知った途端、静に欲望を向けてきて……。

呪われた壺を守る美貌の男×人になじめぬ忍びの女、戦国恋愛怪奇譚!

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登場人物紹介

静(シズ)

静(シズ)

忍びの里の優秀な忍び。極端に情緒が欠けており、他人にも興味がないが、唯一センのことだけは気になる様子。

セン

セン

静と会ったときは幼い少女のようだったのに、急激に成長した謎の美青年。静に異様な執着心を見せる。

お試し読み

「のう、セン……」
「うむ、何じゃ、静。眠れぬのか」
 すでに眠気に蕩かされている声でセンが応える。この暮らしがいつまでも続くことを疑っていないかのような無垢な様子に、静は胸を痛めた。
「話さなければならぬことがある」
「うん……こんな夜更けにか」
「ああ。今、話してしまいたい」
 静は思い切って言った。
「セン。私は近々村の男に嫁ぐ」
「ほう……? 恋仲の男がおったか」
「恋仲ではないが、村長の命令だ。私はその男の妻にならねばならぬ」
「何故じゃ。恋仲ではないのに夫婦になるのか」
「ああ。子を成すためだ。私は乱波だが、女でもある。女である以上、子を孕んで産まねばならぬのだ」
「子を成せばよいのか」
 まだ寝ぼけているのか、センはのろのろと妙な調子で話す。静の打ち明けている話の重さをわかっていないようで、その声は飽くまで朗らかだ。
「静、それでは我の子を産め」
「何……?」
「他の男の子など孕むな。我が種をその腹に宿せ」
「おい、冗談はよせ」
「冗談ではない。子を成さねばならぬのなら、我の子を成せと言うておるだけじゃ」
 ふざけているようにしか聞こえない口調である。冗談でなければ何だというのだ。
(私が、センの子を?)
 それこそ、考えたこともない。まず、センは静にとって男ではないのだ。男と感じてはいけないのだ。散々自制してきたことをいとも容易くひっくり返されそうになり、静は少々腹が立った。
 その静の沈黙を何と取ったか、しょんぼりとした声でセンがこぼす。
「それとも、静は我が嫌いか」
「き、嫌いではない。だが……お前はそういう相手ではないだろう」
「嫌いではないならよいではないか。何が問題じゃ」
「だ、だから。その……」
 そういえば、センはしつこい質である。一度こうしたいと思えば繰り返しねだり続ける。やがて静が根負けしてしまうことが大半だったが、ここは譲るわけにはいかない。
「私はお前を家族のように思っているのだ。共に住み、同じ時を過ごし、庇護する相手だ。子を成すための相手ではない」
「ふむ。それは、我を男として見られぬということか」
「そ……そうだ」
 静は己を偽るのが極端に苦手だった。これまで偽る必要を感じてこなかったし、どういう場合に偽るのがよいのか、その判断もそもそもできなかったので慣れていない。
 案の定、すぐにセンには見破られる。
「静は噓をついておる」
「なに」
「我を見て女の匂いをさせているのを気づかぬと思うていたか」
 夜の闇の中、センの真っ黒な瞳が自分にひたと当てられているのがわかる。静は己の顔がみるみる内に熱くなり、紅潮するのを覚えた。
「我はな、鼻がよいのじゃ。様々な匂いを、遠くからでも嗅ぎ当てられる。静、近頃そなたは女の匂いが濃くなった。むせ返るほどじゃ。なるほど、体が子を成すのに十分に熟したのであろ。我を見て欲情し、こうして寝ておるときは息苦しいような濃密な女の香がそなたの皮膚から立ち上り、我の鼻孔を濡らすのだ」
 センが話している間も、静の心の臓はうるさいほどに脈打っている。感じ取られていた。ああ、そうだろう。あまりにも自分は隠すことが下手だ。しかし、本能はどうしようもない。男が欲しくて欲しくて、センが欲しくて、たまらないのだ。
「毎夜我を欲しがっていたのであろ。我もな、静が欲しい。喉から手が出るほど欲しいんじゃ。最初から欲しかった。そなたの虚無の心に魅入られて、この娘をもっと知りたいと思うた。知るほどに、我はそなたに惹かれた。そなたの空白を埋めたいと願った」
 センの声が熱を帯びる。
 静の心が無だと言ったセン。その珍しさに興味を覚えて盗まれたのだと笑っていた。
 静も忍び入った先で見つけたセンのことがずっと忘れられずに、とうとう戦のどくさくさに紛れて連れ出したのだ。
 自分の心がわからぬ静だが、センを救いたいという衝動に従った。あのとき、それは性欲などではなかった。最初静はセンを女だと思っていたのだ。
 しかし、互いの肉体が成長するにつれ、状況は変わった。
「時間は十分にあると思うておった。熟れるだけ熟れさせて、あふれてこぼれるほどになった頃に摘み取ろう。そう思っておった。じゃが、それも他の男に嫁ぐとなっては話が別じゃ。今、静は我のものにならねばならぬ」
「せ、セン……私は」
「よい、よい。静は恥ずかしがりじゃからのう。我がすべてしてやろうの」
 センの逞しい腕が静の腰を捕らえ、強く抱き締めた。全身がわっと急激な熱気に包まれ、静は一瞬気を失うかと思った。
 甘い体臭に包まれる。それはまるで媚薬のように、静の肉体を熱くざわつかせた。

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