ソーニャ文庫

歪んだ愛は美しい。

打算婚 未亡人になりかけましたがヤンデレ実業家の愛され妻になりました

打算婚 未亡人になりかけましたがヤンデレ実業家の愛され妻になりました

著者:
山野辺りり
イラスト:
時計ルーコ
発売日:
2025年12月04日
定価:
869円(10%税込)
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夫になったからには、僕が全部教えて差し上げます

七十二歳の成金実業家との結婚式を迎えた伯爵令嬢オリヴィアは、式の当日に相手が倒れ未亡人になりかける。没落寸前の貧乏伯爵家の両親に多額の援助の代わりとして売り飛ばされた彼女は、爵位が欲しい夫側の親族によって急遽選ばれた成金実業家の孫ローレンスと結婚。二人はとまどいながらも互いに利害が一致し、婚姻を完全なものにするため初夜を迎える。女性慣れした元独身主義のローレンスに「僕の子を産んでもらいます」と宣言され動揺しつつも、オリヴィアは想像以上に甘い陶酔を味わい――。

慇懃無礼な実業家×メンタル強めの没落令嬢、身代わり政略結婚から始まる溺愛ロマンス

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登場人物紹介

オリヴィア

オリヴィア

残されているのは爵位だけという没落しかけの伯爵令嬢。政略結婚を冷静に受け入れ、初対面のローレンスと結婚。

ローレンス

ローレンス

家業も独自の事業も成功させたやり手実業家。絶世の美貌であちこちで浮名を流した遊び人と言われるが……?

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 嫁ぐにあたり、新妻の心得は勉強してきた。閨では夫に全て任せて、逆らってはいけないと。ただし本来伴侶になるはずだったヴィッツは高齢。
 ひょっとしたら色々上手くいかない可能性もあり、その場合はオリヴィアが夫に恥をかかせないため努力しろと言い聞かせられたのだ。
 ──処女には無理だし、具体的に何をどうすればいいのかは教えてもらえなかったけど……相手がローレンス様に替わった場合に関しては、もっと分からないわ……!
 頭の中がグルグルする。彼の手がオリヴィアのうなじを擽り、そっと引き寄せられる。強い力ではないが、抗えなかった。
「あ……」
 ローレンスに抱きしめられたのだと気づくには、数秒を要した。こんな風に他者の腕に包まれ、身体を密着させたことはない。
 父親どころか母親にだってされたことのない行為で、オリヴィアは自分の手をどこに置けばいいのかも見失った。
 ──ローレンス様の香り、私と同じ。そ、そりゃそうよね。きっと石鹸や香油が同じものなんだわ。
 特別おかしな話ではない。同じ屋敷で入浴したなら、そういうこともあるだろう。しかしとても淫靡に感じられる。
 本日出会ったばかりの男女が同様の香りを纏って、寝室に二人きり。
 普通なら考えられない状況が、背徳感を演出していた。
 ──直前まで別の人と結婚する決意を固めていたから、いきなり相手が替わると悪いことをしている気分になる。
 まるで不貞を働いたか、寝取られる錯覚を引き起こしクラクラした。
 緊張を解したくてオリヴィアが深く息を吸えば、余計に彼の芳香が濃厚になる。無意識にもう一度呼吸を繰り返した。
 ──あ……私と完全に同じじゃないわ。ローレンス様本人の香りと混ざって……この匂いすごく好きかもしれない。
 背中を撫で下ろされると、張り詰めていた何かが癒される。自分で思った以上にオリヴィアは緊張していたようだ。
 心臓が煩いくらい鼓動を刻む。胸を突き破って外へ飛び出さないか不安になるほど。
 小刻みに震える瞼に口づけられ、オリヴィアは小さく息を吐いた。
「僕は貴女を妻として尊重し、大切にすると誓います」
「……っ」
 結婚式でも似たような誓いの文言は耳にした。けれど重みが全く違う。あの時はただ決まった台詞を要求され、演じただけだ。オリヴィアも、ローレンスも。
 そこに自分の意思は乏しかったし、じっくり思案する余裕もなかった。
 ──でも今のは……本心から言ってくださった気がする。
 ならば自分も真摯に応えたい。打算塗れではなく、誠実に。
 結婚を望んでいなかった人を縛り付けてしまった贖罪を含め、オリヴィアは慎重に言葉を選んだ。
「私も、夫であるローレンス様に尽くし、支えると誓います」
 この先、いつ如何なる時も。
 教会では上辺をなぞっただけだった誓いを改めて口にした。もしかしたら、今が本当の意味で二人の婚姻が成立した瞬間なのかもしれない。
 そんな敬虔な気持ちを抱きつつ、オリヴィアは人生二度目の口づけを交わした。
 ──ああ……ちっとも嫌じゃない。
 覚悟していても、ヴィッツと触れ合うことに嫌悪感を抱いたらどうしようという恐れはあった。
 性的な触れ合い自体オリヴィアには初めてだし、何より相手は父親よりも遥かに年上。割り切ったつもりでも、いざとなれば感情が理性を凌駕する可能性があったのだ。
 だがローレンスに対しては怖気の類は一つも起こらない。それどころか頭も心もふわふわする。
 唇を触れ合わせ舌を絡められると、うっとりする心地よさまであった。
 ──気持ちいい……
 大きな手がオリヴィアの背中をなぞる。薄い寝衣は簡単に脱がされた。肩から心許ない布が落とされ、下着は身につけていなかったのでたちまちあられもない姿になる。
 恥ずかしくて咄嗟に自分の腕で胸を隠そうとしたけれど、やんわり手首を握られ止められた。
「とても綺麗です」
 優しく微笑むローレンスに、わざとらしさや気負った様子は微塵もない。ごく自然だ。
 流石は経験値が高いと言うべきか。さらりと褒め言葉が出てくる彼はいやらしい目でこちらを凝視したりしなかった。慈しむ瞳には包容力や余裕が滲み、オリヴィアの羞恥心を軽減してくれる。
 触れてくる手はどこまでも優しい。
 強引なところは一つもないのに、オリヴィアを惑わせ不安にさせることもない。頼り切っていいのだと、安堵が滲んだ。
 ──やっぱり、場慣れているんだわ。複雑な気もするけど、私が主導権を握るのは難しいから、これでよかった。
 万が一の場合は妻として頑張れと教えられても、できることとできないことがある。
 オリヴィアは初夜に夫へ襲い掛からずに済んで、心底ホッとした。
「緊張するなというのは無理でしょうが、オリヴィア様が本気で嫌がることはしないと約束します。……痛い思いは少しさせてしまいますが」
「大丈夫です。私だってそれなりに勉強はして参りました。気遣い無用です。どうぞローレンス様のなさりたいようにしてください」
「そんな覚悟が決まった目をされると、戸惑いますね」
 笑み崩れた彼の顔は、美しさはそのままにローレンスの素の部分が滲んで見えた。
 双眸の奥に横たわっていた陰りが、僅かに薄らぐ。
 そう感じたのはオリヴィアの勘違いか。そもそも彼から仄かな曇りを嗅ぎ取ったのは、自分の一方的な印象でしかなかった。
「も、申し訳ありません。全て初めてなので……」
「優しくします」
 真剣な声音に揶揄する響きはない。オリヴィアを馬鹿にしていないのが伝わってきて、泣きたい心地になる。
 じわじわと胸に広がる温もりは、もう何年も感じたことのないものだった。
 ──まだこの方がどんな人なのか分からないのに……私、ローレンス様が夫でよかったと思っている。
 仮にこの場にいるのがヴィッツであったら──と想像し、背筋が震えた。
 オリヴィアを品定めに来たあの男の視線を思い出し、ゾワゾワが止まらなくなる。思うことすら罪深いが、急に『悍ましい』と心が悲鳴を上げた。そのことに一番驚いたのは、オリヴィア自身だ。
 ──私ったら……本音ではそう感じていたのね。
 今夜触れ合うのがローレンスであることに、感謝したい。自分を道具と見做さない瞳は、幸せな花嫁の幻想を抱かせてくれた。
 それだけで、オリヴィアには望外の幸せだ。
 ガウンを脱ぎ捨てた彼の身体は、逞しく引き締まっている。服の上から抱いた印象より更に鍛え上げられていた。
 筋肉が見事な陰影を描き、オリヴィアにはない力強さがあって、肌は滑らかで弾力を感じさせる。
 裸の胸に抱き寄せられると、それがオリヴィアの妄想ではなく、実際にその通りなのだと知らしめられた。
 ──男性の身体って、思ったよりも硬くて熱いのね。
 包み込まれるとドキドキする。安心感と圧倒的な体格差による戸惑いを同時に覚えた。
 そのままベッドへ押し倒され、見上げた先にはローレンスの美貌。
 見下ろされると、視界が彼一色になる。
 こういう体勢で男性を見上げたのは初めてで、オリヴィアはどこに焦点を合わせればいいのか分からなくなった。
 ──じっと見つめるのははしたないと教わったけれど、だったら目を閉じていればいいの? だけど次に何が起こるのか不安だから、きちんと確認したいわ。
 結果視線をさまよわせる。するとローレンスがオリヴィアの額にキスを落としてきた。
「貴女のしたいようにして、構いませんよ。もっとも、すぐに目のやり場に迷う余裕はなくなると思います」
「ぇ……」
 オリヴィアの悩みを見透かされた驚きと、意味が汲み取れない物言いに、つい彼を凝視した。
 その隙を突く形で、オリヴィアの脇腹が撫でられる。搔痒感に肩を揺らした直後、胸の先端をローレンスに舐められた。
「……っ?」
 しかも口内で頂を転がされる。生温かくぬるつく舌に乳嘴が捏ねられ、むず痒くてそこへ熱が集まるのが感じられた。
「ローレンス様、待ってくださ……ぁ、あッ」
 擽ったさと見知らぬ感覚が一斉に押し寄せた。身を捩ろうにも、覆い被されているため、オリヴィアはたいして動くことも叶わない。できるのはせいぜい身体をくねらせるだけだ。

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