ソーニャ文庫

歪んだ愛は美しい。

陛下、貴方と寝るのは一度きりです!

陛下、貴方と寝るのは一度きりです!

著者:
栢野すばる
イラスト:
らんぷみ
発売日:
2025年07月03日
定価:
858円(10%税込)
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結婚しよう? 子ども、作ろう?

大帝国から辺境の小国に嫁いだ皇女アマーリエ。二国の血を引く次代の王を産む役目を負っていたが、子をなせぬまま夫は死亡。王位は夫の弟ヘンリーが継ぐことになり、帝国からは彼のための新しい花嫁が送られてくるという。これで自分はお役御免と思いきや、ヘンリーから「女の抱き方がわからないから、不安で結婚できない」と相談されて!? 彼は冷淡だった夫の代わりに心の支えになってくれた大事な存在。アマーリエは、強い責任感から閨指導を引き受けることにするのだが――。

腹黒ワンコな美貌の王×気高い王太后、
かわいい義弟は執着強めな狂犬でした!?

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登場人物紹介

アマーリエ

アマーリエ

和平のため幼くして今は亡き国王に嫁ぐ。聡明で真面目。ヘンリーのことは可愛い弟のように思っていたが……。

ヘンリー

ヘンリー

優秀な騎士だったが、兄の死後王位を継ぐことに。アマーリエにずっと重い感情を抱いている様子。

お試し読み

 ──閨の手ほどき、か。失敗できないわよ、アマーリエ。
 そう思いながら、アマーリエは壁の一角を見つめていた。
 かつては夜になるとその部分が開いて、エドワードが顔を出した。アマーリエはうんざりした気持ちを顔に出さないよう笑顔で彼を迎え、素直に服を脱がされたものだ。
 ──そろそろ、ヘンリーが来るのかしら?
 寝室の秘密扉を気にするのは久しぶりだった。亡きエドワードは精力が強く、なにかと理由を付けてはアマーリエを抱いて劣情を晴らしていた。
 帝国の手前、公式の愛人を持つことも許されず、さぞ鬱憤がたまっていたに違いない。
『お前、目が生意気だ。もっと啼いて男を喜ばせろ』
 亡き夫の手荒い愛撫を思い出し、アマーリエは遠い目になる。
 ──ヘンリーには、あんなことを教えちゃ絶対に駄目ね。優しいから強引なことはしなさそうだけれど。
 そう思っていたとき、秘密扉がノックされた。
 寝間着姿だったアマーリエは思わず姿勢を正す。いくら義弟とはいえ、エドワード以外の男性の前で寝間着姿になるのは初めてだからだ。意識すると恥ずかしい。
 ──お、おかしくないかしら、私?
 アマーリエは寝台の脇に置かれた姿見を確認する。長い銀の髪を下ろし、白い花を飾っている自分が映し出された。
 頭に一輪の花を飾るのは、初夜の花嫁の習わしだ。
 今宵の花は、花瓶から適当に取った名も知らぬ花だが、なかなか似合っているようだ。自分が若い娘であることを、今さら思い出したような気がした。
 ──この花を付けたまま押し倒しちゃ駄目よ、って教えなくちゃ。
 アマーリエはさらに鏡を覗き込んだ。
 寝間着の生地が薄く、人よりも大きな胸が目立つような気がする。布を巻いて潰しておくべきだっただろうか。だが、初夜の花嫁が胸を潰しているとは思えない。
 ──恥ずかしいけどこのままでいいわ。気にする仕草をするから余計目立つのよ。
 さらに自分の装いを確認する。薄い寝間着の下は、脱がせやすい下着だけだ。男と寝るのが分かっているときに、がちがちの補正下着を着けている女はいない。
 アマーリエは立ち上がって、卓上に用意されたお茶の一式を確かめる。
 鎮静作用のあるお茶は、緊張してモノが立たない場合もあるだろうからと用意した。
 これであとはヘンリーを待つだけだ、と思ったとき、軽いきしみ音とともに、部屋の隅の秘密扉が開いた。
「お義姉様」
 笑顔で入ってきたのは、軽装のヘンリーだった。美しい髪はずぶ濡れで、冷え切っているのか唇は紫色である。
 予想の斜め上を行くヘンリーの様子に、アマーリエの緊張は吹っ飛んだ。
「水でもかぶったの!?」
「予想以上に……張り切っちゃって、ちょっと頭を冷やしてきた」
 なぜヘンリーは目を合わせないのか。悪戯が見つかった子どものようだ。
「拭きなさい、風邪を引いてよ!」
 アマーリエはヘンリーに駆け寄り、意を決して寝間着を脱いだ。身体を拭ける大きな布は侍女に持ってこさせなければならないからだ。
「動かないで、大人しくなさい」
 木綿の下着姿になり、アマーリエは寝間着でヘンリーの頭を包み込む。冷え切って青白かったヘンリーの顔がたちまち真っ赤になった。
「お、お、お、お、お、お義姉様なにを……っ……」
「初夜の床では不測の事態が起きるのよ、花嫁が何かしてくれるときは、まずは素直に身を委ねることね。これから先、貴方を支えてくれる人なのだから」
「ゆ、揺れてる……揺れて……」
 アマーリエは無言で自分の胸を見下ろす。ヘンリーの言うとおりだ。心の清らかな童貞には刺激が強すぎたのかもしれない。
「目って、目ってどうやってつぶるんだっけ!?」
「落ち着きなさい、女の胸なんてそのうち見慣れるわ」
 照れ隠しに眉をしかめながら、アマーリエはびしょ濡れのヘンリーの髪を寝間着で拭く。ヘンリーは耳まで真っ赤になりながら、大人しくなった。
「本番ではきちんと身なりを整えなければ駄目よ?」
「は、はい」
「これで少しは乾いたわ。じゃあ初夜の手順を……きゃっ!」
 突然たくましい身体に抱きすくめられ、アマーリエは悲鳴を上げた。頼りない薄さのシュミーズ越しに、どくどくというヘンリーの心臓の音が伝わってくる。
「……ねえ」
「な、なあに?」
 アマーリエの心臓も、ヘンリーと変わらないくらい高鳴り始めた。
 思ったよりはるかにたくましい。エドワードと比べるのはなんだが、彼よりも全身が若々しく引き締まっているのが分かる。
 ──ま、まだ若いからもっと頼りないと思っていたけれど……あ、そうか、騎士。ずっと騎士として活動しているから……こ、こんなに……。
 唯一知っていた夫以外の男の身体を感じ、鼓動が激しくなる。ひどく顔が熱い。赤面するなんていつ以来だろうか。
「今夜はお義姉様が僕の花嫁なんだね?」
「え?」
 アマーリエは一瞬真顔になる。
 ──そう、なのかしら?
 はいとも言えるし、いいえとも言える問いだ。
 抱きしめられたままじっと考え、アマーリエは雰囲気が盛り上がる方の答えを選んだ。
「そうよ」
 余計なことをくどくど言うとヘンリーが萎えてしまいそうだ。
 興奮していても紳士として振る舞えるように『仕上げる』のが、筆おろし係の未亡人の腕の見せ所なのである。少なくともアマーリエはそう聞いた。
「嬉しい」
 ヘンリーがそう言って、ますますアマーリエを抱く力を強めた。
「駄目。私は平気だけれど、他の女性は強く抱いたら怖がるかもしれないわ」
「いい匂いだ」
「話を聞きなさい。それからそんなふうに腰、を……」
 押しつけてきてはいけない、と言おうとして、アマーリエはますます赤くなった。
 ──あ、当たってる……っ……!
 下腹部に押しつけられているのは、そそり立つ立派なヘンリー自身だった。
 それは焼けるように熱く、鉄のように硬いのが分かる。先端はアマーリエのへそを超える位置のように思えた。
 ──お、大きく……ないかしら?
 誰と比べてかといえば、言うまでもなく夫である。
 ──比べちゃ駄目、比べちゃ駄目よ、アマーリエ、そんな下品なことは……あ!
 ひくりと動いたソレがアマーリエの腹を打つ。やはり大きい。頭にワインの瓶が浮かんだ。そして慌てて浮かんだ瓶を取り消した。
 落ち着こう。ここは未亡人として、義姉として、余裕を見せねばならない。
「ヘンリー、いきなり抱きつくのは駄目。余裕がないと相手に思われてよ?」
「愛してる、僕の奥さん」
「そうね、その素敵な言葉はとてもいいわ、じゃあ、抱擁をもう少し緩めなさい」
 言葉通りにヘンリーの腕が緩む。美しい顔がアマーリエの顔を覗き込む。
 ──本当に、なんて綺麗なの。ルネジアもこんな美男相手ならおとなしくなるのではないかしら?
「僕の可愛いアマーリエ」
 ヘンリーがアマーリエを見つめたまま、形のいい唇を動かした。
「ええ、花嫁をわざと呼び捨てにするのもいいと思うわ。今のように、呼び捨てにするときに褒め言葉を付け加えると、感じがいいし雰囲気も盛り上がるわね」
「愛してる」
「とてもいいわ、本番ではこの雰囲気で口づけるのよ、今回は口づけたことにしましょう。じゃあ次は……んっ」
 アマーリエの唇が、柔らかな唇で塞がれた。ちゅ、ちゅ、と可愛らしい音を立てて、ヘンリーの唇がアマーリエのそれに何度も触れる。遠慮がちでありながら、執拗さを感じさせる口づけだった。
 ──口づけは、実際にしなくていいのに。
 焦りを覚えながらも、アマーリエは唇を離そうとした。
 まだ夜は長い。教えることが山積みだからだ。
「ヘンリー、待って……ん、ヘン……んく……っ……」
 だが、ヘンリーの腕に囚われて逃げることができない。
 だんだん口づけが深くなっていく。ヘンリーの熱を帯びた舌がアマーリエの舌先をつついた。軽い口づけの音に水音が混じり始める。
「ん、ふ……」
 ヘンリーの口づけに、アマーリエの身体が震えた。
 少し遅れて、今自分が感じたのは快感だったと気付く。

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