ソーニャ文庫

歪んだ愛は美しい。

冷徹伯爵の愛玩人形

冷徹伯爵の愛玩人形

著者:
山野辺りり
イラスト:
氷堂れん
発売日:
2025年05月07日
定価:
869円(10%税込)
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罪悪感に苛まれても、君を逃がしてはあげられない

八歳の時に伯爵家の養女になったシェリルは、養父の急逝に安堵していた。十年もの間、着せ替え人形として弄ばれていたのだ。葬儀のため四年ぶりに帰省した義兄ウォルターは、かつての優しい彼とは違いシェリルを冷たくあしらう。唯一の心の支えだった彼に、養父との関係は知られていた。しかもシェリルが父を誘惑していたと信じるウォルターは、今度は自分の愛人になるよう迫る。抗えないシェリルは、真実を言えないまま倒錯した快楽に溺れ、二人の不埒な関係は加速し――。

生真面目な若き伯爵×弄ばれた美しき義妹、
いびつに絡まる手枷にとらわれた純愛。

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登場人物紹介

シェリル

シェリル

整った顔立ちで養護施設から引き取られた伯爵令嬢。長年に渡って養父に虐げられ、自我を出せずに生きていた。

ウォルター

ウォルター

父親の急死により二十二歳で当主となった若き伯爵。離れて暮らす前は、シェリルにとって優しい義兄だったが……。

お試し読み

 手際よく服を脱がされ、シェリルはベッドの上で身悶えた。
 少し前までウォルターと軽食をとり、今後のことを話していたはず。それなのに今は永遠に隠しておきたかった秘密を暴かれ、あまつさえ不埒な関係を求められた。
 未だに何故こんな状況になっているのか、完全に理解しているとは言えない。
 だが現実は彼の部屋のベッドで半裸になり、淫らな手つきで身体を弄られていた。
「お、兄様……っ」
 抵抗と呼ぶにはあまりにも弱々しく、控えめに身を捩る。こんなことは間違っていると頭では分かっているのに、触れる手の優しさがシェリルを惑わせた。
 養父に好き勝手されていた時は、一秒でも早く苦痛が去ることだけを祈っていたはずが、ウォルターが相手だと思うと官能が滲むのが不思議だ。
 行為自体に大きな差はない。けれど身体は正直に嫌悪と歓喜を切り替えていた。
 腰をなぞられ、腕を撫で下ろされて、首筋を舐められ、乳房を摑まれても、嫌だとは感じない。むしろゾクゾクとした愉悦が生まれた。
 喉を通過するのは呻きではなく滾った呼気。必死に声を殺そうとした結果漏れ出た、喘ぎの欠片だった。
「これからは兄と呼ぶな。シェリルはゴールウェイ伯爵家とは何の関わりもない──ただの僕の愛人になるんだから」
「あ……っ」
 耳朶に歯を立てられ、被虐的な悦楽に翻弄された。
 シェリルは痛いことが苦手だし、そういう趣味は微塵もない。養父に縛られたり目隠しされたりするのも、本当は嫌で堪らなかった。
 それなのにウォルターに嬲られていると思うと、腹の奥が熱くなる。やや強めに胸の頂を摘ままれても、苦痛より快楽を覚えてしまった。
 今、肌を隠してくれるのは下着のみ。それすら身体に引っ掛かっているだけの淫猥さ。
 いっそ全裸の方がいかがわしくない状態で、シェリルは妖しい声を出さないように全力を尽くしていた。
「ほら、呼んでごらん」
 この状況に不釣り合いな彼の柔らかい物言いは、否が応でも過去の記憶をよみがえらせる。
 探り探り兄妹になろうとしていた、睦まじく平和だったいつかのことを。『お兄様と呼んでごらん』と微笑んでくれた日のことを。
 滲んだ涙が悲哀か恍惚かはシェリル自身にも判別できない。
 冷静に考えようにも、ひたすら注がれる快感で溺れないよう、息を継ぐのが精一杯だった。
「や、ぁあ……っ」
「まさか僕の名前を憶えていないわけじゃないだろう?」
 勿論、知っている。直接声にすることはできなくても、何度口内で転がしたかは数えきれない。本当は呼んでみたかった。
 けれど『お兄様』ではなく名を口にしたいと願っていた己の卑しさを見抜かれた心地がして、シェリルの背筋が冷えた。
 これは罪だ。抱いてはいけない感情と願望。兄に抱いていい種類のものではなかった。
「呼んで。命令だ」
「ぅ、ふ……っ」
 命令だと言いながらシェリルの口の中で指を遊ばせるウォルターの思惑は推し量れない。
 舌を撫でられ、歯列をなぞられるとゾクゾクする。えずきそうなほど奥までは入ってこない彼の指先は、ひどく淫靡にシェリルの粘膜を刺激した。
「ん、く……んん……っ」
 口内にも性感帯があるのを初めて知る。乳房の頂が尖り赤くなれば、捏ねられる気持ちよさがより膨らんだ。
「早く」
「ぅうッ」
 若干痛みが勝る強さで乳嘴を抓られ、シェリルはくぐもった悲鳴を漏らした。しかし直後に先端へ舌を這わされ、生温かい口内で愛撫される。すると痛みはジンジンとした法悦へ取って代わった。
 腹を伝い下りた男の手が下着を完全に取り去り、シェリルの繁みを梳く。咄嗟に脚を閉じて横を向こうとしたが、伸し掛かられた体勢からは逃れられなかった。
「そこは……駄目です」
「それなら早く名前を呼んで」
 ウォルターと兄妹になって十年以上。人生の半分以上を彼の家族として生きた。けれどその間一度もウォルターの名前を音にしたことはない。
 夜会や茶会で彼に憧れる令嬢たちがシェリルから情報を引き出そうとして名を呼ぶ時、秘かに嫉妬していたのは秘密だ。
 誰にでも平等にある権利を、自分だけが持っていない気がして──心が痛んだことも。
 ──兄妹である限り、決して越えてはならない線があると思っていた。
 自分のせいでウォルターが悪く言われてはいけないと、尚更己を厳しく律していたのもある。所詮は元平民の孤児と嘲られないよう、隙を見せる真似は避けていた。
 ──でも、いいの? 私がお兄様の名前を呼んでも……
 もう兄妹ではなくなるのだから。そう宣言したのは、他でもない彼自身だ。それなら許されるのではないか。
 理性と倫理感が根本から揺さ振られる。
 善悪の天秤が傾いた先は、ある意味シェリルの欲望に忠実だった。
「ウォルター……様……っ」
 声を絞り出した瞬間、彼の動きが一瞬止まった気がする。だが目を閉じていたシェリルに確証は持てない。
 それにすぐ荒っぽく口づけられて、確認することはできなかった。
「んん……は、ふ……」
「もう一度」
 舌を乱暴に絡ませられ、混ざった唾液を嚥下させられた。喉の奥が先ほどワインを口にした時よりも焼けて感じる。
 クラクラするのは今頃酒が回ったせいなのか、それとも別の要因からなのかを見極められない。
 操られるようにまたか細くウォルターの名を呼べば、濃厚なキスを施された。
「ぁ……んぅ……っ」
 内腿の狭間へ忍び込んだ彼の指が、柔肌に圧をかける。それがじわじわ上昇し、付け根へ至るまでさほど時間はかからなかった。
「待って……!」
 名前を呼べばやめてもらえるのではなかったのか。先刻のやり取りでは、そういう意味だと思ったから、シェリルは従ったのに。
 咄嗟に片手でウォルターの手を阻もうと試みたものの、快感で力が入らないシェリルでは阻止しきれなかった。
 易々と彼の指先が蜜口へ触れる。するとぬるりと滑る感触があり、シェリルは愕然とした。
「もう濡れている。シェリルは随分淫らな身体をしているんだな」
 こちらを貶めるウォルターの発言に言い返せなかったのは、自分でも驚いていたせいだ。
 何故ならシェリルは自身を不感症だとずっと思っていた。
 養父もそう言っていたし、『そういうところがより人形のようで堪らない』と喜んでさえいたのだ。
 養父に何をされても感じず、悍ましさに歪みそうになる顔を無表情で糊塗し、心と身体を切り離す術が上手くなっていた。
 それ故、ずっと自分は性的なことに反応しない身体なのだと安堵と絶望が入り交じっていたのに。
 ──どうして、気持ちがいいの。
 ウォルターに触れられた場所が熱くて、どんどん敏感になっている。考えてみたら胸に触れられただけではしたない声を我慢しきれなくなっていた。
 こんなことは初めてで何が何やら分からない。他人と素肌を触れ合わせるのは、不快な行為だと思ってきたのに、認識を根底から覆された。

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