ソーニャ文庫

歪んだ愛は美しい。

さようなら、婚約者様。これにてお別れいたしましょう

さようなら、婚約者様。これにてお別れいたしましょう

著者:
宇奈月香
イラスト:
天路ゆうつづ
発売日:
2026年08月05日
定価:
924円(10%税込)
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わからなかったのだろう? 彼女がいい女だって

婚約者と義妹の情事を見てしまった次期伯爵のニーヴェリア。動揺しつつも亡き母の教えに従い領地経営に励んでいたが、突然暴漢に襲われ身体に傷を負ってしまう。虐げられていた家族から離れ静養する叔父の屋敷で出会ったのは、道楽者と噂される第三王子ラルヴィン。男性に激しい拒否反応を起こすようになったニーヴェリアの元に、彼は女装して会いに来るようになる。徐々に傷が癒やされ距離を縮める二人は、練習として少しずつ触れ合いを重ねる。手を繋ぎ、頬に口づけ、優しく抱擁を交わし……。そこへ、婚約者エルドンが現れて――!?

腹黒女装王子×男性恐怖症の次期伯爵、甘くインピュアな恋のレッスン。

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登場人物紹介

ニーヴェリア

ニーヴェリア

亡き母の遺志を継ぐ次期伯爵。伯爵代理である父の仕事をほぼひとりで担う。責任感が強く常に自分を律している。

ラルヴィン

ラルヴィン

道楽好きで遊び回っていると噂の第三王子。中性的で華やかな美貌の持ち主。なぜかニーヴェリアに近づいてくるが…?

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 ニーヴェリアは身体を起こして、ラルヴィンを見つめた。
「噓だと思う?」
 小首を傾げると、ラルヴィンが小さく首を横に振った。
「思わない。でも、噓でもいい」
 彼らしくない随分弱気な発言に、つい笑ってしまった。
「それくらいヴィアが好きなんだ。君になら一生騙されてもいい」
「そんなことしないわ」
 ニーヴェリアが夫に求めるものは、自分と同じ目線で同じ未来を見てくれるか否かだった。そのための努力を怠らない勤勉な人であれば、それ以上のことは望むべきではないとすら思っていた。
 まして自分を愛してくれるなんて、あり得ないことだと諦めていた。
(彼と私は同じ部類の人間なのね)
 人を選ぶ基準が同じなら、きっと上手くいく。
 しかも、ラルヴィンはニーヴェリアが初めて抱いた恋の相手だ。
「私にあなたを愛する権利をくれる?」
 与えてもらえるなら、絶対に離さない。
「権利なんて必要ないよ。誰にも文句は言わせない。──愛してる」
 そのままニーヴェリアは、求めるように口づけた。
 指越しではない感触に心も身体も歓喜している。
 後頭部に回された手の大きさすら愛おしくて、何度も唇を重ねては外し、息継ぎもままならないくらい求めた。
「抱いていい?」
 熱っぽい声に、ニーヴェリアは頷く。
 拒む理由はなかった。
 ラルヴィンがニーヴェリアを抱き上げると、そっとベッドに横たえた。宝物を扱うような丁寧さが嬉しい。大事にされていると感じさせてくれる。
「あ……っ」
 離れていこうとする仕草が寂しくて、思わず声が零れた。
 そんなニーヴェリアを見て、ラルヴィンが目尻を下げて微笑んだ。
「どこにもいかないよ」
 彼はハチミツ色の髪を一房掬い、口づける。その慣れた仕草に、ニーヴェリアは見惚れると同時に、わずかな嫉妬も覚えた。
 これまでにどれだけの令嬢が、彼の口づけを受けてきたのだろう。
 社交界に出たことはなくても、きっとティアナみたいな愛らしい人を大勢見てきたに違いない。そう思えば、とたんに自分の体軀が恥ずかしくなった。耐えきれず横向きになってラルヴィンの視線から逃れた。
「どうしたの?」
「あ……んまり、見ない……で?」
 両手で顔を隠しながら、ニーヴェリアはくぐもった声で言った。
「恥ずかしい……から。私は……美人ではないし、胸だって」
 人並み程度しかない。
 もっと彼を魅了できるくらい魅力的に育ってくれればよかったのに。
「なんだ、そんなこと」
「ひゃっ」
 ラルヴィンがおもむろにニーヴェリアの耳を舐めた。
 濡れた感触に驚くと、「顔を見せて」と至近距離で囁かれる。
「ちゃんと見せて。ヴィアの恥ずかしがっている可愛い姿が見たいんだ」
「い、意地悪ね」
 目尻を赤くしながら睨めつけると、ラルヴィンが「ごめん」と口先だけの謝罪をくれた。
 くすくすと言葉遊びを楽しむラルヴィンの視線が妙に艶めかしい。
「ほら、早く」
 ゆっくりと身体を起こして、ニーヴェリアに馬乗りになるラルヴィンの下で、身を捩りながら仰向けになった。けれど、恥ずかしくて顔までは向けられない。顔をやや右に向けながら、ニーヴェリアは彼の視線に耐えた。
「綺麗だ」
 うっとりした声が、腰骨に響く。
 彼の熱視線にじわじわと身体が火照っていくようだ。
「可哀想に、震えているじゃないか。禁欲的な君が羞恥に耐えながら、俺の前に身を差し出してくれてる。こんなこと、したことないだろう? 知ってる? ヴィアの唇って。ぷっくりした耳朶はどんな味がするんだろう」
 顔を寄せ、触れるか触れないかの距離で息が耳にかかった。
「や……」
「うなじから鎖骨までの線もすごく綺麗だ。透明感あるこの肌にずっと触れたいって思ってた」
 そうして、彼の手の気配が首筋を這う。触れてないのに、ぞくぞくした。
 思わず脚を摺り合わせたのは、妙に股の奥がもどかしかったからだ。
「綺麗な腕なのに、傷つけさせてごめんね。舐めてあげる」
「あっ」
 息つく間もなく、腕の内側を布越しに口づけられた。その瞬間、びくんと上半身が跳ねた。
「指先は怪我してない?」
 腕を持ち上げられ、指先に口づけられる。
「あぁ、少し爪が削れてる」
 そう言うと、ラルヴィンが丹念に指で手を揉んだ。先端を撫でたあと、手の間を指が滑っていく。なんとも言えないむず痒さに、ニーヴェリアは小刻みに首を振った。
「ルヴィ……だ、め」
「駄目か。傷ついたな」
「──っ」
 そうだった。ニーヴェリアたちには合い言葉があったじゃないか。
「ルヴィ……、それ〝いい〟」
 合い言葉を口にすると、ラルヴィンが目を細めた。そのマロウブルー色をした瞳に貪婪な光が見えたのは気のせいだったろうか。
「それじゃ、これは?」
「はっ……あっ」
 ラルヴィンの手がゆっくりと脇から乳房へと登ってきた。服越しに弄られる感覚に、ニーヴェリアはまた首を振る。
「それ……も〝いい〟」
「あぁ、なぞるのは駄目なのか」
 ひとり納得して、ラルヴィンが指で乳房の尖頂辺りを搔いた。
「ふっ、んン──、そこは〝いい〟って」
「じゃ、舐めちゃおう」
「あ、ぁっ」
 生温かい空気が服越しにでも伝わってくる。ざり……ざり、と服を舐める音の艶めかしさに、ニーヴェリアは戸惑った。
 なぜなら、ニーヴェリアは閨の教育だけは受けていないからだ。
 夫婦は子を成す営みがある、とは知っていても、こんなふうに焦らされる行為があるなんて知らない。
「なに、して……っ、ふ……ぅ、ん」
 身を起こしたラルヴィンが足を弄っている。内股に触れた手が、ゆっくりとニーヴェリアの片足を持ち上げると、ふくらはぎに頬ずりをした。
「あぁ、好きだよ」

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